アンテナ







題名:アンテナ
作者:田口ランディ
発行:幻冬舎 2000.10.31 初版
価格:\1,500

 抽象を具体的なわかりやすいものに変容させて市井に広げるのが小説の一つの役割だとしたら、この本は一体なんだろう。抽象を具体的な事物で表現しようと言うイメージング小説か?

 前作『コンセント』から『アンテナ』へ。まるで人間を家電製品やパソコンのように表現しつつ、あくまで他者との接点の妙にこだわる田口ランディが、このたびは家族的無意識という題材を取りあげて、またも悪夢的官能世界へ誘う。

 映画にしたら大変に風変わりで前衛的な映像になるのかな。そう思わせるほど、イメージの鋭さに天才を感じさせる作家。

 前作では親しい人の突然の死。本作では親しい人の突然の失踪。身のまわりに降りかかってくる突然の厄介な出来事に、主人公は対処できず、答えも得ることができない。

 それゆえにアンバランス。……デリケートで壊れそうでそれでいて不思議な冒険に満ち溢れている。物語の先が読めないでいる理由は、作者もどうなってゆくのか構想を持たずに書き綴ってしまうからなのかもしれない(by作者のサイト=http://webmagazine.gentosha.co.jp/concent/concent.html)。(現在の作者公式ブログはこちら

 散文で遊んでゆく表現の可能性。それでいて堅苦しくなく、あくまで庶民的な言葉で言い表される軽妙で不思議な世界。唯一無二の小説地平を切り拓いた彼女は、インターネットでアンテナになっているように見える。

(2001.03.22)
最終更新:2007年12月09日 23:09