チャンス




原題:Chance (1996)
著者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker
訳者:菊池 光
発行:早川書房 1996.12.15 初版
価格:\1,845

 ここのところ好調と言っていいシリーズ。このペースならぼくはもっと人にお薦めできるのだ。中でも本書は群を抜いたプロットだとぼくは思った。内容は、非常におおまかに言うとギャングの派閥争い。少し説明を加えるとロシアン・マフィアのボストン進出。これに絡む事件を引き受けるスペンサーというのが本書のエッセンスである。

 何よりもまずは失踪者を追ってホーク、スーザンとともにラスベガスへゆく前半。いかにもシリーズのサービスを感じさせてよろしい。ラスベガスの情景、ホテル、そこでうごめく人々の描写。百人の作家が百通りの書き方をするであろうこの街の、パーカー的描写がここにある。

 前半の楽しみから一転して、後半ストーリーがぐいぐいと危険な方向へ走り出す。殺し。再失踪。出直し。人間たちの罪と欲を背負ってプロットが動く。ロシアン・マフィアの進出でバランスを崩そうとするギャングどもの縄張り争いという大きな背景と、小さな個人的な欲望とが錯綜して絡み合っている様がいい。もつれ合った男女の化かし合いがいい。

 他の作家、例えばエルロイが書くことのできそうな暗黒世界の勢力争いの中に、どちらかと言えば能天気な詩人兼スーパーマンであるスペンサーやホークが入っていろいろなものごとを解決する。世界はノワールであっても、彼らのまわりだけはどこか明るかったりして不思議だ。

 まあこういう切り口で書かせて右に出る者はいないだろうから、それなりに楽しいエンターテインメント・イン・ラスベガス。もう一つのアメリカ・イン・ノワールなのである。