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予知夢





題名:予知夢
作者:東野圭吾
発行:文春文庫 2000.06 初版 2007.11.15 28刷
価格:\467

 ドラマ『ガリレオ』は、事件の題材自体は忠実にこの短篇シリーズを今のところなぞっているようである。ドラマでは『霊視る みる』しか見ていないのだが、狂言回し役の刑事・草薙役を、人気女優である柴咲コウに原作にはいない内海薫という女性刑事に振り替えているようだ。

 原作が短篇であるゆえか、間を持たせたり少し複雑化したりしているシナリオ・ライターの筆入れがドラマではやはり目立つ。でも理系ホームズといった役どころの湯川学の存在感、独特の怪事件解決法といったあたりは、原作の味をそのまま踏襲しており、研究室では、イメージじゃない福山雅治がインスタント・コーヒーを原作どおりにちゃんと飲んでいるあたりも、まあ努力の痕跡として見受けられないこともない。

 だが、ドラマを見た限りでは、やはり原作の持つ文章力によるめりはり感は与えられないか、と思う。ドラマは高視聴率帯のせいか、贅沢なほどのゲスト俳優たちが毎回毎回登場するようだが、原作では多くの事件関係者たちには貌がない。リアリズムというものが、まだしも存在するのだ。

 その上でなければ、このようなオカルト的不思議事件たちに科学的解決は与えられない。オカルト色もけれんに溢れたものではなく、東野タッチならではの、ナチュラルなものであり、その中で十分に興味を惹いてしまう語り口が光るので、この味はやはり文章によってしか出せない種類のものかと思う。

 映像とは、文章のある意味での解釈の結果であり、読者は必ずしもそれを求めない。読者の数だけの解釈が存在するというのが、小説というスタイルの長所なのである。

 どの短篇も出色の完成度を持っており、短篇シリーズとは言え、大変印象に強い。老若男女に適応できる間口の広さと、余韻の深みがあるところも東野マジックと言うべきか。

 前作『探偵ガリレオ』よりも、さらにオカルト色強い上に、実験室で待ち受ける湯川先生の毎度毎度の登場の仕方も、奇妙さが板についてきており、もはやこの作品集、職人の味わいである。

 この文庫本が世に出た時期、『容疑者Xの献身』の雑誌掲載が始まったようである。当時、このシリーズで長編が書かれることも想像し難かったろうが、それが直木賞を受賞する運命にあるなど、だれもが夢でさえ予知できなかったに違いない。

(2007/12/09)