霊柩車No.4





題名:霊柩車No.4
作者:松岡圭祐
発行:角川文庫 2006.11.30 初刷
価格:\514




 霊柩車ドライバーを主人公に据える、っていうだけでアイディア勝ちなところがある。内容はいつものサービス過多によって破綻しているけれども、掴みの部分はとてもいい。

内容が破綻しているというのは、いわゆる荒唐無稽であること。面白さを優先するがゆえにリアリズムから遠のいてしまう、あまりの都合よき展開。あまりの偶然の多さ。あまりの都合のよさ。これらすべてが、『千里眼』以降の松岡作品に共通するがゆえに、リュック・ベッソン映画のような作り物感覚で純粋娯楽としては娯しめるのだが、作品としてすんなり評価し難いのも事実。ハリウッド映画的で凄すぎるんですな、展開が。凄ければいい小説っていうんなら、ともかく、そうとばかりも言えないところが読者の心情の複雑さなのである。

 それはともかく霊柩車ドライバーというのは、やはりなんとも魅力的だ。エルモア・レナードの『身元不明者89号』の令状配達人も奇妙な職業だったけれども、こちらはそれ以上の設定かもしれない。

 このドライバーには過去がある。事件に深く関わってゆく動機がある。個人的にはそうした自分の過去をあまり関わらせず、シリーズ化しても構わないような序盤の謎めいた存在感の方が好みなのだが、徐々に作品はドライバーの内側に入ってゆき、その謎めいた楽しみは奪われる。そこがなんとも大衆娯楽路線のもったいないところだ。

 あとがきによれば、霊柩車ドライバーのブログで仕入れたネタを参考にしたとのこと。実は面白いとぼくが感じたその職業の特性による部分は、ほとんどがこちらのネタ元だったのだ。真実は小説より奇なり、だったのだ。ちょっとがっかり。

(2007/12/08)
最終更新:2007年12月09日 00:46