マジシャン





題名:マジシャン
作者:松岡圭祐
発行:小学館 2002.10.10 初版
価格:\1,600

 詐欺師対奇術師対決。小説のジャンルの一つにコンゲーム小説というのがあって、それは詐欺をネタにした小説であり、海の向こうではロス・トーマスあたりが得意としていた。映画ではまさにジョージ・ロイ・ヒルの作品『スティング』がコンゲームの本家みたいなものだった。

 ただしコンゲームというのは詐欺そのものをネタにするのではなくて、騙し合いだとか裏のかき合いによって相手を陥れてゆくタッチの小説であり、必ずどんでん返しがなければならない。フリーマントルなどもこれに近い作りをしている作品が多い。

 日本ではコンゲーム小説というのはあんまりないのだけれど、真保裕一『奪取』などは偽札作りを材料にしながらも、コンゲームの楽しさを満載した作品としての傑作であったと思う。でも他にあまり記憶にない。特に日本では。要するにコンゲーム小説を作るというのは結構大変なことなのだ。だから実際にはあまり出回っていない。

 さて、だからこの本『マジシャン』がコンゲーム小説なのかと言うと、そうではない。何せ詐欺そのものと真っ向から対決してゆく捜査官たちの物語だからだ。捜査官の方は騙すのではなく、詐欺やマジックを学びながら真相に迫ってゆくからだ。犯人側は記述を悪用した詐欺犯グループ。だから言ってみれば逆コンゲーム小説。どんな手口で犯人たちは詐欺を実行しているのか? その謎を解いてゆく物語なのである。

 こういう小説外ネタモノ、薀蓄モノ、舞台裏モノを書かせると右に出る人がいないのがこの作家。怪しげな題材を一般読者に展開して見せる大道芸人マインドとでも言おうか、その芸風、いや作風は娯楽小説界にあってなかなか変り種でもあると思う。本書は久々に千里眼シリーズ(さすがに催眠シリーズとともにマンネリ化しつつある)から離れた独立作とあって、それだけこちらも構えることなく(と言っていつも構えたくなる仕掛けいっぱいの作家であることは間違いないのだが)楽しく読むことができた作品なのである。また、それ以上に、マジックのネタに興味がいくつも展開されることだけでもけっこう興味を引きつけられる。

 現代の生んだあまりジャンル所属のはっきりしない、鬼子的な作家であり、自身もかなりのオープンな娯楽人であるのだと思う。どの作品もある意味玩具のように他愛もなく、理屈抜きに何故か楽しい。

(2002.11.30)
最終更新:2007年12月02日 22:38