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クローズド・ノート





題名:クローズド・ノート
作者:雫井脩介
発行:角川書店 2007.01.30 初版
価格:\1,500




 これはミステリ作家が、ミステリとは無縁の純粋な恋愛小説によって人を感動させてしまう実例である。もはやエンターテインメントは、ジャンルなどで切り分けるべきではないのだろう。謎を追いかける楽しみはミステリでなくても、人の心の中に十分に発見することができるのだから。この歳になって、恋愛小説に、これほど泣かされるとはよもや思わなかった。

 語り手である私という女子大生がいて、彼女は賃貸マンションのクローゼットから前の住人である女性教師のノートや生徒たちのメッセージを発見してしまう。自分が恋に悩む傍ら、彼女はノートを読み進めてゆく。ノートの女性教師も同じように恋に悩んでいて、それを読むヒロインは次第に自分を彼女に同化させてゆく。

 いわゆる、結末が読めてしまう小説である。むしろそのことに気づかずに、恋愛を躊躇って前に進まないヒロインをもどかしく感じさえする。それ以上に、携帯小説という形式がそうさせるのか、万年筆フェアの売り子経験についてのあまりにディテールな描写が、女性小説を意識しすぎてか、少し長すぎて辛い。しかし、これも恋に落ちてゆくために必要な時間、なのかもしれない。

 結末が読めるわりには、約束された結末に改めて心が打ち震えてしまう。そういう小説こそ、逆に、けれんのない正統であるとも言えるかもしれない。

 この作品を読んだときの状況はこうである。

 雪が降っている日に、会社を休んで布団の中で寝込んで過ごす。戸外は静かだが、ときどき音楽が流れてきたりする。小学校の校内放送だ。息子が通った小学校は、我が家のすぐ裏側に校庭があるので、そこを子供たちの声や校内放送が突き抜ける。

 昼の光が窓から差し込むうちは、暗いわが寝室であっても、電灯に頼らず本を読むことができる。

今日は、小学校の女性教師のノートを中心としたこの小説を読みながら、裏手の小学校から流れる校内放送をバックミュージックにし、そうして自分の小学生時代、息子の小学生時代、随分前に死んだ弟の小学生時代などなどに思いをめぐらせている自分に気づく。また、当時のいろいろな先生の貌や級友の貌を思い出したりもした。

 読み終わって、この本を閉じることがなかなかできなかった。作者の、亡くなった実姉のノートがこの小説の題材になっているとは、後記にて知る。その部分に至って、さらに読み進めることができなくなった。さらにこうした女性が存在した、そうした女性教師が大好きだった子供たちが存在したという事実に、純粋に心揺すられる小説であった。よくもまあ、ここまで人の心を打つ小説を作ることができるものだ。涙が止まらない。

 映画化されているけれど、キャストがほとんどぼくの読書中のイマジネーションとフィットしない。女性教師役の竹内結子はぴたりとはまる。恋人役の伊勢谷友介も、まあ演技次第で許容範囲か。しかし、いくらなんでも主役に、沢尻エリカはないだろう。この作品のヒロインはとても三枚目で明るい部分が大きいか庶民的なイメージなのだ。

いずれにせよこれほど優れた文章による小説である。原作を味わうのがベストだろう。

(2007/11/21)