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題名:煙
作者:松岡圭祐
発行:徳間書店 2000.3.31 初版
価格:\1600



 こんなに地味で濃い小説も書けるんだ、と感心してしまった。本当にいい小説なのである。いわゆる『催眠』や『千里眼』のサービス精神とは違ったところで勝負した松岡圭祐の新たな地平。ぼくなら何よりもこういう作品を映画化していただきたい。何となく『ときめきに死す』の空しさを思い出したから、監督は森田芳光で是非!

 あるいは今村昌平監督『神々の深い欲望』か。あの土俗的な祭祀のシーンをクライマックスに据えてみてもいいだろう。とある地方の、とある勢力絵図をバックに、人間存在の何かを問いかけるような、本書は実に絵になりそうな作品なのである。

 大ぼらが好きな作家というイメージが、この作品では思いがけず見事に瓦解して、しみじみとこの作家の実力を味わってしまった。

 仕掛けは『ミドリの猿』にも共通するところがある。それを言えば、鈴木光司の『リング』シリーズにも通底するところがある。これだと信じていた世界が自分の思ってもいなかった世界。さらに上位世界があってそこから操られていた世界、なんていう危うくバランスを取っている世界の構造は、リング・シリーズのめくり絵本的な驚きにも似たものがある。『千里眼』も、本書もそういう小説の作法では同じ出発点から走り出したものなのだ。こういうものって、なんだか不自然なところも確かにいっぱいあるのだけれど。

 それでも、やはり派手派作家と思われていた作家にとって、これはこれで会心の一作だろう。作品の持つエネルギー。凄まじいどんでん返し。それでいながら、全体のトーンとしてはじーんと静かで深い味わいがある。そういう不思議な本なのである。

(2000.05.04)