千里眼





題名 千里眼
著者 松岡圭祐
発行 小学館1999.6.10 初版 1999.7.10 3刷
価格 \1,700

 『催眠』から中1作飛ばして、こちらを入手して読んでみたのだけれど、この出来の良さからすると、もしかして今年度のベスト・ミステリーを席巻するのではないかと思う。『催眠』からはずいぶん遠くに来たなと思わせるスケール感。疾走感。それでいてディテールの書き込みの鋭さは相変わらずである。

 『催眠』で見せた読心術を多用した<千里眼>対決や、オームなどボーイスカウト集団に見えるほどの凶悪無比なカルト教団<恒星天球教>の影なき恐怖。東京湾上空を舞台にした航空戦まである大サービス。そして裏のまた裏まで深く構築された催眠的トリック。この作品のすべてがすごい。すご過ぎると思う。

 それでいてプロットの面白さにすべてがあるだけではない。人間重視の視点に徹して変わらないのは、作品に安定感を与えているし、いつも心を覗きこむような筆致は、この作家の真骨頂であると思う。

 続編を期待させる終わり方だが、この作品の女性主人公・岬美由紀にはこれで引っ込んでいただきたくない、というのが読後の心情である。

 ハリウッドに持ち込んでジョン・ウーあたりを監督に据えて、大型資本で制作して欲しいような物語であるし、作者もそのへんのサービス精神を見習ってこの超エンターテインメント作品をものにしたような気がする。

 一気読み間違いなしの面白作品です。あまたは『ホワイトアウト』とどちらが好みかな?

(1999.08.15)
最終更新:2007年10月15日 00:11