催眠 特別篇





題名 催眠 特別篇
著者 松岡圭祐
発行 小学館 2000.8.1 初版
価格 \1,200



 今年になって今さらTVドラマ化? と思っていた日曜劇場『催眠』。その直前に公開されていた映画『千里眼』人気も手伝ってか、松岡圭祐は『催眠』に手を入れてシリーズに繋げるという作業をこの本にやらせたくなったらしい。元の『催眠』ではなく、接続プラグ付バージョンアップ版『催眠』と言った意味合いを持たせて。

 恒星天球教、メフィスト・コンサルティングと言った『千里眼』シリーズでの敵手たちが何とこの『催眠』で既に登場してしまったり、『千里眼』のヒロインである岬美由紀との接点もシーンとして登場させるなど、TV版や映画版に向けての接続プラグまできちんと用意されているあたり、この作者独特のメディアミックス志向も極まりないという旺盛なサービス精神が感じられる。

 TVドラマはと言えば、これまた映画とも原作とも、ましてやこの本ともかけ離れた脚本の上に成り立っていてそれなりに楽しく見ていたのだが、あれはあれ、これはこれとそれぞれがそれぞれの作り手によって独自なメディア世界を構築してしまっている。もともとの催眠という素材がエキセントリックで良かったというべきか、登場人物造形の段階で既に、作者の仕事の大部分が成功していたのだというべきか?

 この本にもTVの登場人物紹介のカラーグラビアなどが付されている。小説そのものとはほとんど繋がりがなく、奇妙なアンバランス感を与えられる。それでも作中にきちんとTVでは印象深かった「紫の蝶」を登場させるなど、細かな作者側の気づかいも見ることができる。『催眠』ファンは読んでみて損はないと思う。

 ちなみに、ぼくはTVシリーズの最終話だけを見逃してしまった。なのでドラマの方の謎が全然解けていないというくすぐったい思いをし続けているのである。うーむ。

(2000.11.04)
最終更新:2007年10月14日 23:54