催眠





題名:催眠
作者:松岡圭祐
発行:小学館 1999.5.1. 初版 1999.7.20 6刷
価格:\1,900



 映画の予告編をよくTVで見ていて、ホラーとかオカルトの傾向の作品なんだろうなとの認識しかなかったけれども、なかなかぼくには好みのジャンルとしてぴったりはまってしまった。今後、この作者は追いかけようと思う。

 何よりも『催眠』というタイトルやホラーめいたイメージから喚起されるものと、この小説の健全さの差が気になる。売り出し方としてはオカルト風、内容はしかし人間の「心」を題材にした小説。

 逢坂剛風のサイコ・ミステリーでもない。今までちょっと思いつかない作風だと思う。作者が臨床心理士とのこと。そうした職業があること自体初耳だったが、カウンセリングという言葉は今の米国ミステリーになくてはならない言葉の一つになりつつあるくらいだから、この心理という分野を切り裂きにかかる日本の小説があっても、現代では一向に不思議ではないと思う。

 その自然な現代性、心の問題による犯罪が多発する世紀末、やはり今このタイミングでこうした作家が現れて、こうした題材を取り上げて、となると自分の中でぴったりはまるのも納得がゆく。

 何よりも、この作者自分で書くべき課題を多く持っているようだし、語り手としての引き出しも多いようだし、それだけで作家的資質は十分のように思える。次作以降にも十分期待が持てる。

(1999.08.15)
最終更新:2007年10月14日 23:52