カカオ80%の夏





題名:カカオ80%の夏
作者:永井するみ
発行:理論社 2007.04 初版
価格:\1,300





 永井するみにとっては、初めてのティーンズ向け作品であろう。ライトノヴェルという書き方が本来似合うでもないこの人が、小説家としても円熟味を帯びた現在、ようやくこうした読者層(つまり女子高生、プラスマイナス5歳といったところ)にターゲットを絞った作品を書けるようになったのは、読者としてもある意味とても幸せなことであるような気がする。

 これは高校二年の女子高生が夏休みに、体験する友人の失踪事件の物語。友人の母から失踪を知らされ、それは一週間ほど不在しますというような書置き付きの、さほど事件とも呼べない事件ではあるけれども、ヒロインの三浦凪にとっては、ひと夏の冒険でさえあった。

 カバーにはこうある。

 ひと夏のきらきらした瞬間を封じ込めた、  
 おしゃれなハードボイルド・ミステリー。

 ハードボイルドではないとは思うけれど、女子高生にしてはけっこう自立したヒロインは好奇心といい、行動力といい、放縦な家庭環境といい、けっこう私立探偵への適性を秘めているように思える。海外小説的な空気さえ感じられる、どこか無国籍でピュアなエンターテインメントの香りもいいし、対照的に、高齢化する日本という現代と若者との共存の文化スタイルといったところもテーマに描いていて、さすがの熟練ぶりが、こうした小説にも生きている。
 全然手を抜かない書きっぷりと、逆に若すぎる主人公だからこそ描くことのできる青春時代の仲間たちとの距離感、家庭内の距離感など、微妙でナイーブで、デリケートで、そして少しずつ打算まで混じった、大人になりかけた貴重な時間だけに味わえる活き活きとした感覚のようなものをふんだんに小説に取り込んでいるあたりが、読みどころである。

 多分若い読者は違和感なくこうした小説を手にとって楽しむだろう。親の世代は、若き世代の可能性や、遠い昔の思い出を、経過した時代のフィルターを通して、もう一度振り返り、味わうことができるだろう。いやいや、理屈抜きに、ちょっとぞくぞくするようなスリルある冒険と謎解きを、万人が楽しむことだってできるに違いない。

 しばらく忘れていたような人間のぬくもりに改めて再会できたような気持ちになれる、そんな心優しい一冊である。

(2007/09/30)