遊戯





題名:遊戯
作者:藤原伊織
発行:講談社 2007.07.25 初版
価格:\1,500





 絶筆となり、途中で終わってしまう連作短編集、ということを覚悟で読むしかない。藤原伊織は5月に亡くなったため、この連作で現れる自転車に乗った謎の人物が主人公である二人の男女に対し、何を想い、何を目論んでいたのか知る術はない。もちろん物語は解決を見ないし、この本では雑誌発表された5作の連作短編が、全体の8割であるのか、それとも3割に過ぎないのかすら、判断することができない。いろいろな意味でフラストレーションを覚悟で取り組まねばならない本であるということだ。

 しかし、人の死は、神でもない限り止めることができないものであり、彼が最後の最後まで書こうとしていた小説のなかで、活き活きと謎に挑み、孤独から抜け出そうとする人間の生きる本能的な性質、人と繋がってゆこうとする生き物としての自然な欲求、などなどは、死を目前にした作家の文章からも十分に感じられる。人は死ぬ寸前まで生きてゆき、その時間枠の中では、生きている人間のことしか理解できず、生きている人間のことにしか関心を持てない、とでもいうように。

 ここでは限りなく孤独な運命を背負った男が独り描かれてゆく。フリータームをネットゲームに嵩じ、フルメタルジャケットをフルに込めたブローニングを抱いて寝る孤独で風変わりな男。

そしてもう一人の主人公は、闊達で、まだ十分に生き切れていなく、未来ばかりが無辺際に広がる若く美しい娘である。自分の美しさにも気づかず、今を生きることにすべてを尽くし、好奇心に溢れ、人間の優しさを求める、ある意味純粋培養されたような青春を生きる女性。

 二人の交点はネットゲームで始まるが、無警戒で危うい女と、人生の地獄を体に刷り込まれてしまったような男との出会いは、とてもアンバランスで、謎に満ちた展開を見せてくれる。彼らを付け狙うストーカーの正体は、本書では最後まで明らかにならないのだが、そうしたミステリー軸以上に、二人の出会い、距離感、そして交情、といったところに物語の本質は隠れているように思えるから、未完であっても、敢えて魅力に溢れた物語である。

 ただの長編ではなく連作短編という形でこの物語が書かれたわけは不明だが、何となく想像することはできる。どこで終わっても一つ一つの短編としては基本的に楽しむことができる。あるいは、体調不良であっても少しずつ書き進めることができる。後者には限界があったのだが、それでも遺作と呼ぶに相応しいスタイルで作者も編集者もよくよく話し合い、あるいは想い合った挙句のかたちが本書であったのかもしれない。

 ちなみに最後に連作集とは別の短編作品が一作だけ、収録されている。『オルゴール』という名の短編だが、仕事の世界と叙情の世界を交互に渡り歩いてきた作者ならではの、バランス感覚溢れる、実にいい切れ味の作品である。そもそも短編作品でも定評があり、確実に人々を魅了する作家であった。短い作家人生ながらも、実に濃密な仕事をし、強い印象を我々に残して去っていった人であった。巻を閉じるとともに、改めてつくづく惜しまれる作家だった、と思いがけずため息を吐いたほどだった。

(2007/09/30)