トカジノフ






題名:トカジノフ
作者:戸梶圭太
発行:角川書店 2002.08.10 初版
価格:\1,500

 戸梶作品は全部読んでいるのだが、この本が出たときには短編集だと知って、初めて、ああ、買わなくてもいいやという気持ちになってしまった。戸梶が年に何冊も作品を量産していて、ほとんど「これが」と思える小説がなくなり、ほぼ一定レベルで落ち着き、もうこれ以上のものがないなと、ぼくとしてはある程度見切ることのできる段階に到達したイメージがあったからだ。

 ある程度売れ、もともとそう肩に力の入った作家ではなく、ユーモア系のスプラッタ・パンク作家であることから、量産もできるだろうし、楽しくこのまま遊び心いっぱいに出版文化を楽しんでいって欲しいとの戸梶観もぼくのなかでできあがりつつあった。

 だけど作家はときには短編が凄い、という場合がある。オットー・ペンズラーが編纂している『アメリカミステリ傑作選』を先ごろ読んで、短編も侮れない、とか、短編でも面白い、という手応えを掴んだところで、さてこの『トカジノフ』に接してみると、なんとその二つの感想をそのままこの短編集にもスライドできてしまうことを発見。

 ぼくのなかでは短編作家は巧い作家、というイメージがあって、どちらかと言えば行間を読ませる、余韻を楽しむ、といった年輩でベテランの作家陣に風格などを求めていたきらいがあったのだが、本書のように短編ならではのボリュームをきっちり意識して、行間などではなくこのボリュームに合ったサイズの物語を提供し、かつ作家の長編での風味をそのまま出し切ることのできる技量というのも、見直さざるを得なくなった。

 戸梶作品は、見事にバカだなあと感心してしまう作品が多く、ブラックとおふざけとサービス精神にまみれた、何らきどることのない、ノンタブー・エログロ世界であるわけだが、短編においてもそのスタイルに固持している点、そして短編であろうと面白さを提供しつづけるという商売根性に脱帽してしまう。

 スプラッタあり、青春あり、サスペンスあり、アクションあり、ホラーありの8作。ある意味ストーリーとアイディアの宝庫みたいな作家であることを証明する初短編集なのであった。

(2003.06.22)