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牛乳アンタッチャブル


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題名:牛乳アンタッチャブル
作者:戸梶圭太
発行:双葉社 2002.2.15 初版
価格:\1,500



 少し時を置いてみると、どんなに世間を騒がせたものでも大きな事件を時系列順に並べることが難しくなる。少なくともぼくはそうだ。雪印乳業の不祥事の中でも大阪で食中毒発生から大樹町工場の脱脂粉乳中毒素が原因であったと判明するまでどのくらい時間がかかったのかと考えると、それが二週間だったのか、三ヶ月だったのかよくわからない。その後牛肉問題へと続き、いわゆる食品メーカーは非常に杜撰だということが世の中の人にばれてしまった。世の中の人はこんなに大きな企業がねえ、と驚き呆れると同時に、その会社の経営陣の「私は寝てないんですよ」発言にさらに怒りを増幅させたものだった。

 それでも大樹町工場の手入れ(とは言わないのだろうか? 検査と言うのかな? ぼくには手入れと言うほうがしっくりくるように思えたけれど)以来、数ヶ月だか数週間だか数日だったかが経った頃に(あいまいでスミマセン)、ぼくは雪印牛乳を買って飲んでいた。コンビニで今売られている雪印はもうまさか大丈夫だろう、むしろ入念に検査されているだろうとの思惑も当然あった。しかし、それ以上に大樹町の住人の大部分が雪印工場勤務なので、ここの操業停止が彼らにとって相当に痛いというニュースのほうがぼくには現実的に響いてきたのだった。

 ニュース映像では工員たちの悲痛な叫びが流れた。ぼくはちなみにこ大樹町を何度も通っているから、そこが十勝南部のとても小さな町であることを知っている。そこに住む工員たちの表情の裏にはちゃんと会社上層部への怒りもまた見え隠れしているのがわかった。どこの社会でも悲鳴をあげるのは会社の最底辺で額に汗して働く人たちであり、人員整理という形で路頭に最初に放り出されるのも彼らである。大樹町工場でもまずはパートさんからどんどん辞めさせられていった。中には10年以上も働いているパートさんまでいて、それでも会社にとってはたかがパートさんなんだなと思うと、それはなんだかひどく物悲しいニュースだった。

 さて本書はそうした事件から時を置かず非常にタイムリーに書かれ、さっさと出版された本。戸梶圭太は書くのが早いだろうなと常々思っているけれど、本書も多分驚くべきスピードで書かれたのだと思う。本にするのも辛いようなノンフィクショナルな題材でかなり現実にあったことを辿って、しかもそこそこ中身のある面白いエンターテインメントに仕上げて、そして商品として売れる本を作るというのは、やはり戸梶的プロフェッショナリズムを感じさせてやまない。

 会社内に結成された首切りチームの召集の仕方はまるで七人のサムライなみだし、そのオリジナリティはいつもの戸梶の劇画タッチにデフォルメされまくっていて、その中で主役の宮部だけが妙にリアルで悲しい庶民であるところに作品としてのバランスを感じさせる。そして悪党どもをさらし者にして倒してゆく七人のサムライもどきがなんとも胸のすく活躍をどちらかと言えば言葉・せりふで見せてくれるところがやはり小説なのだ。

 リアルで辛い犠牲者を沢山出した事件であればこその本であり、そうした現実への批評精神がないところにはこんなギャグもどきのふざけた表現方法を採った小説であっても生き残ることはできないと思う。ちゃんと人間の優しさみたいな部分に着地してゆく小説の目線があるからこそ、ふざけてもおどけてもクレイジーでも何でも成立してしまうのが戸梶ブランドなのかなと思うときがある。戸梶はアーチストと言うよりは職人……ぼくはここのところずっとそう見ている。娯楽小説のために生まれてきたような人なのだと思う。

(2002.11.30)