闇の楽園





題名:闇の楽園
作者:戸梶圭太
発行:新潮社 1999.1.30 初版
価格:\1,800

 『弥勒』『屍鬼』と「村」の盛衰を題材にした力作が続いた昨年であったが、この『闇の楽園』はその二作に負けるとも劣らぬ、村の強烈な祝祭の一部始終を描いて、あくまで生き生きと魅力的な作品なのであった。

 新人が新潮ミステリー倶楽部賞に応募して見事これを射止めたという作品だけに、荒削りで破天荒で定石を無視したところが、ぼくには負の力ではなく逆に吸引力と映ってならなかった。既存の作家に既に備わってあるものを書く、しっかりした若い力などはぼくはむしろ求めてはいない。過去の蓄積と呼ばれるものを壊し、かつ力強く読者を魅了する作品をこそ、ぼくはやはり求めていたのだなあ、とこの本を読んでつくづくしみじみ感じたくらいだ。

 小じんまりとまとまって見た目の良い物語以上に、こうした作品がかもし出す人間味に溢れたパワーというのは、冒険小説というジャンルにしてみればそれなりの財産である。選者たちが嘆くように(ざまあみろ!)ミステリー色は薄いんだけど、謎なんぞいらんとばかりに長野県の、とある鄙びの町を襲うこの人間たちの欲望の渦は、実に多くのものを破壊し去ってみせた。

 多くの奇怪な人間を登場させ、多くの人間たちを屈折させては、村起こしとしてのダーク・ランド建設とカルト教団の聖地建設とが闇の中で激突してゆく。日常のなかに埋もれがちな小市民たちがいつの間にか巨大な闘いの中に巻き込まれてゆく。『ガダラの豚』に感じられたような闇の世界から来たる強烈な暴力と、これに闘いを挑む怒れる小市民たちの死に物狂いな闘いとがたまらなく勇ましく、最後まで厭きさせない。

 多くのキャラクターがバイオレンスの狂瀾の向こうに置き去りにされてゆく中で、たくましく哄笑する者が新しい暴力の天地を求め、逆に夢を求める純な若き魂がいる。まさに多くの生きざまや価値感が共存する「村」の姿がここに溢れかえっている。

 ラスト・シーンは、大林宜彦に撮らせたいほどに良いシーンであった。感動的というのではなくって、不思議と魅力的で、やはりバイタリティ至上主義とでも言うような生命感の横溢したものを感じさせてくれた。

 多くの屍や生命がまったく整理されていないながら、こうでなくては新人作者としてのデビューなんかできないぞ、とでも言うように読者側の難関を見事にクリアしているように見える。ぼくとしてはかなり高評価を与えて今後も応援してあげたくなるような作風。まさに快挙と言えるほどの、これは面白力作なのである。

(1999.04.30)