黄金の島






題名:黄金の島
作者:真保裕一
発行:講談社 2001.5.25 初版
価格:\2,000

 次に何を書くか予想もできないジャンル無用の作家・真保裕一。これだけはイメージ外と言っていいだろうアジアン・ノワールに今回は何と挑戦してくれた。常に読者をいい意味で裏切るという冒険的取り組みをその姿勢に示す作家だから、まあこういうのも行ってしまうのか、と納得できるのだが、読み進むにつれて明らかになってゆくその骨太なストレートさ。けれん味のない、直球勝負ではないか。

 「ヴェトナム戦争」という単語でしかぼくは知らないヴェトナム。戦争以降のヴェトナムの状況について、これほど掘り下げて描いてくれた娯楽本いうのは、初めての体験であるかもしれない。ましてや日本作家では。ボートピープルの質が、いつかしら政治亡命から、経済的な種類のものに変わってきていることなど、こういう物語を体験しないことには、なかなか感覚的に掴めないものだ。

 そしてこの本の白眉は、カバー絵で暗示されている通り、海洋冒険小説としても味わえてしまうかもしれないほどに、緊張感の溢れるヴェトナムから日本への脱出航路なのだ。

 ヤクザになり切れぬ日本人と、貧しさの底から這い上がろうとする若きヴェトナム人たち。真保裕一中、最も雄大なスケールを持った作品であるとも言える。何よりもきれいごとの多かったこの作家から一皮剥けたクールな結末へと疾走する物語。ドラマの軋みが聞こえてきそうなくらいに。

 直木賞候補作になったそうであるが、受賞を逃したのが惜しいくらいに、作者入魂の一冊であるのだと思う。

(2001.08.11)
最終更新:2007年09月30日 14:20