ストロボ





題名:ストロボ
作者:真保裕一
発行:新潮社 2000.4.20 初版 2000.7.10 3刷
価格:\1,400

 日本では多くの作家が、短編集を多く発表しているけれど、藤田宜詠、香納諒一、そして真保裕一ってところは、短編集もきちんと意識して色揃えをしてゆく几帳面な作家という印象がある。中でも連作短編集は長編小説のように人物描写がきちんとしていて、読者としてもキャラに対し馴染んでしまうので、短編とは言え、決して馬鹿にできないものがある。

 本書は一人の写真家半世紀を遡行的に綴った、味わいある連作短編集。主人公の50代の物語に始まり、40代、30代、20代と徐々にエピソードを綴ってゆく形式が変わっている。次々と遡ってゆく一人の人生。強烈なエピソードの数々。それはまるで、ストロボで照射して切り取るように。記憶のレンズがフラッシュ・バックしてゆくように……。

 とにかく洒落た構成である。各短編に一人ずつ主人公を根底から動かしてしまう種類の人物が登場する。ミステリーではないけれど、新潮ミステリー倶楽部ならぬ新潮エンターテインメント倶楽部というところが作品集としての味噌なのかもしれない。

 ちなみにぼくのこれまで読んだ同シリーズは篠田節子『青らむ空のうつろのなかに』、花村萬月『守宮薄緑』。新潮エンターテインメント倶楽部……短編の叢書ながら、きちんと壷を押さえているところはけっこう憎い。

 だからこそこの作品集は大人の物語である。今頃になって映画化され世を騒がせている『ホワイトアウト』の原作者として有名になってしまった真保裕一。『ホワイトアウト』からはずいぶんと距離を稼いで歩いて来たように見えるのだけれど。しかし映画というメディアはいつもいつも原作の視点から観ると、驚くほど遅く、驚くほど注目を浴びるものなのだろう。

(2000.11.05)
最終更新:2007年09月30日 14:17