ボーダーライン





題名:ボーダーライン
作者:真保裕一
発行:集英社 1999.9.10 初版
価格:\1,700

 ハードボイルドと最も縁のない作家だと思っていた。どちらかというと優しさ方面ばかりが目立つそんな真保裕一が真っ向から挑んだ正統ハードボイルドの雄編。

 真保らしさと言えば、舞台をアメリカに持って行った上で銃を所持するための法的条件、そして探偵ライセンスを所持するための論理的展開、このあたりのリアリスムへの周到な準備と言ったところだろうか。日本作家でも有数の準備調査作家である真保の真保たる由縁が作品のこうしたところにある。

 作品へのきめ細かなそうした愛情は相変わらずで好感が持てる。何よりも舞台を真保らしからぬアメリカに持ち込んでメキシコ国境地帯のきな臭い土地に、銃をぶっぱなすことに抵抗や違和感を覚える日本人調査員を立たせたという、この作家的冒険心にこそぼくは拍手を贈りたい。

 文体も凝っていて、多くのエピソードが、超短編小説のように散りばめられていて、その一つ一つが料理にまぶされたグリーン・チリの破片のようにぴりりと辛口に効いている。そこでアメリカらしさを感じ、砂漠の熱風を感じ、日本人探偵のスタンスの不安定な部分、何かもっと確かなものを求めにアメリカにやってきた青春の彷徨を感じ取ることができれば、この作品は魅力的で耀いたものに見えてくる。

 真保の新しい冒険の第一歩に乾杯、と言っておきたい。

(1999.11.06)
最終更新:2007年09月30日 14:16