トライアル





題名:トライアル
作者:真保裕一
発行:文藝春秋 1998.7.30 初版
価格:\1,238

 公営ギャンブルはスポーツでありながら、最後のところでスポーツではない。ちょっとした楽しみ以外にも、社会の膿、欲による破滅、多くの暗い面を抱えてもいて、これに主催者側は頬かむりする。でも頬かむりしきれずに、社会のあくのようなものを滲み出させ、これがこれらの物語を生み出して行く。

 公営ギャンブルを、取材魔・真保裕一がどのように切るのか、ひとつの楽しみだったが、残念なことに三つの物語において、プロットもテーマも似通っていた。兄、妻、父……役どころこそ違え、かけがえのない人間たちとの疑惑と絆。ギャンブル界に関わるがゆえの葛藤。アンチ・スポーツ・ライクなこと……。

 ミステリアスな最終話『流れ星の夢』が毛色を変えてけっこう生けた。

 でも全体的に、真保裕一らしさというものが、こうした短編集の枠では活きていないように思える。どちらかと言えば、ぼくにとって真保裕一は短編の名手ではない。確かに『防壁』はけっこう良かった。しかし、最近の『密告』などでのちまちました心理描写などを見ていると、不足を感じる。

 『奪取』や『ホワイトアウト』で見せた、枠にとらわれぬ、こころざし豊かな長編を存分に書いていって欲しい作家なのである。

(1998.11.18)
最終更新:2007年09月30日 14:14