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防壁





題名:防壁
作者:真保裕一
発行:講談社 1997.10.10 初版
価格:\1,600

 ある種命がけの公務に携わる職業を中核の題材に、例によって取材をもとにした中・短編集である。一般市民の及びもつかぬところで「この職業への誇り」という非常に抽象的なものに、私生活や生命の犠牲を惜し気もなく払う男たち……とでも言おうか。

 サラリーマンもいろいろな犠牲を強いられてはいると思うが、この本の男たちはさらに強烈なプレッシャー下で生きている。SP、海難救助員、爆発物処理班、消防士と言った四つの職業に関わる物語。どの物語も、それら職業的真実をおろそかにせず完結させていて、読み応え十分、味付け十分。真保裕一はつくづく巧い作家である。

 ぼくはサラリーマンだけれども、この種の職業の人たちに少しだけ関わる商売もしているので、とりわけ救命や救助の必要な現場、災害関連の部署には、ときどき顔を出したりしては、何らかの利潤を追求しつつ、日々の糧としていたりする。だから自分の仕事と、彼らの仕事の間にある一つの太い境界線というものは、越えることができないものとして日頃感じさせられている。彼らが非日常的な部分でこそ生きてくる職業であることには、何とも理解が及びそうにないし、その苦労については、日常的な仕事に恵まれたぼくのようなぐうたらな存在は、想像すべくもない。

 ある意味でそういう彼らの私生活を含め、彼らの職業的戦い、その日常、緊張……そういった影のところを見せてくれたのがこの一冊なのだと言っていい。まだまだ、普段ぼくらが思いつきそうにないが、社会にとっては重要なこの手の影の職業というのはありそうだ。真保裕一がまたもそれらの何かに触手を伸ばしてくれるのではないかと、ぼくとしては期待したいところである。

(1997.10.27)