悪の華





題名:悪の華
作者:新堂冬樹
発行:光文社 2002.10.25 初版
価格:\1,700

 新堂冬樹作品は下劣な人間を書くのが巧過ぎて、どうも読書としての快適な楽しみが泣く、性悪なコミック本を開いているようないやあな気持ちになってくるため、もう読むのをやめようと自分の中で一旦決断した作家であった。だけども、今度は何だかシチリア・マフィアが日本に流れ着いて、中国黒社会なども交えた死闘を繰り広げるというではないか。さすがにこの設定には、新堂冬樹の下品さを差し引いてでもぼくは惹かれるものがあった。

 そういう設定の鋭さはやはり本物で、この作品、新堂冬樹のいつもながらのプロットの見事さもさりながら、下品なだけではなく、盲目の妹というトラウマを抱えながら悩む主人公には、これまで新堂作品にはなかった小説的核のようなものが生まれており、それが最大に嬉しかった。この作品はぼくにとって結果的に新堂最高傑作であった。

 一つにはクライマックスの持ってゆき方がまるで船戸与一ばりに鋭い魅力。シチリアvs福建vs上海vs極道vsポリスwith蛇頭という、これ以上ないサービス満点の設定に加え、東京湾を舞台にした銃撃の嵐。何という無国籍アクション巨編なのだろう。それでいて、スムースな流れるような運び方。独特の破壊的文体はいつのまにか、この作家の持ち味になってしまっているし、いつもの軽薄さが、物語の重さゆえかあまり感じられないところがやたら嬉しい。

 完全に一皮剥けて、新たな方向性を見出した作品と言って構わないと思うのだが、この扇情的な作家のことだから、こうした活劇方面暗黒小説的といった切り口に落ち着いてしまうということは、きっとないのだろうなあ。残念だけど。

(2002.11.09)
最終更新:2007年09月30日 13:41