蒼ざめた王たち


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原題:Pale Kings and Princes (1987)
著者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker
訳者:菊池 光
発行:ハヤカワ文庫HM 1994.12.15 初刷 1998.1.15 2刷
価格:\505

 シリーズでもこのあたりは三冊ばかり続けて難解なエピローグ、とそこから取ったこれまた難解なタイトルというのが続いている。しかし、ここのところ内容は日常的なスぺンサー哲学の吹聴よりは事件解決の方に多くのページが費やされるようになっており、ある種のスペンサー・ファンがめりはりを失いがっかりしているのかもしれないが、ぼくのほうはすっかり安心してその娯楽性の方を楽しむ余裕を与えられた気分でいる。

 この本は問題の娯楽性を満たすという意味では最たるもので、コロンビア・コカイン・ネットワークが支配するホイートンという町にスペンサーが乗り込み、そこでの新聞記者殺害事件を警察に代わって調査継続するというものである。殺人事件そのものよりも町全体の存在に基づく犯罪の空気の濃さの方が際だっていて、スケールも大きそうな気配。いわゆる黒沢映画的(つまりは西部劇的!)な娯楽性がのっけから漂っているのだ。端的に言って、ぼくは好きだ、こういう話は。

 見知らぬ人間たちに出会い、邪険にされ、彼らを独自の流儀で追ってゆくうちに、町を取り巻く錯綜した人間関係に気づいてゆく。スペンサーの動きを疎ましがる町側の悪党たちは彼に対し攻撃の手を加えてゆく。ホークというお定まりの助勢を得て、スペンサーは一歩も退かずに対決してゆく。

 スペンサーってこんなシリーズだったっけ? 『拡がる環』や『告別』は一体何だったのだと思えるほど、娯楽性が回復し、ストーリーがきちんとテリングされている。こんなシリーズだったら、スペンサーシリーズに多いと言われている女性ファンの何割かの代わりにけっこうな男性読者が味方についていてあげられたのじゃないかと、ぼくは思う。

 このあたりの数冊のなかでは抜群にいい乾いたエンターテインメント作品であるし、何よりもホイートン全体に感じられる敵意、悪意。こうした舞台背景はスペンサーの地元ボストンでは得ることのできない緊張感をもたらしている。

 文庫解説で『歩く影』との相似性を指摘されているが、ぼくもしっかりそう思った。シリーズも永くなるとある種のパターンに分類しやすくなるというのはどうしても出てくる現象だと思う。でもこの本が出た時点では、パターン化にはほど遠かったと思う。きっと斬新なパターンとしてかなりの読者を捉えたのではあるまいか。