終着駅





題名:終着駅
作者:白川 道
発行:新潮社 2004.10.20 初版
価格:\1,900

 演歌の世界を思わせるウェット極まりない中年ヤクザの登場シーン。鼻につくほどの哀愁。一頃の日本映画を見ているかのようなペシミズムに、過去へのやるせない思い。やってきた罪の重さと、自己否定に引きずられたデカダンス。ヤクザ者のかっこよさとか薄っぺらさではなく、本来生きるべき世界から滑り落ちてしまった者としての、転落の履歴が悲しい。なるほど、白川道の世界が幕を開けてゆく。

 ジョニー・デップが主役を演じた『デッドマン』というジャームッシュのカルトっぽい映画がある。もともと好きなニール・ヤングが全編ギターをかき鳴らしてくれるということで見てしまった映画ではある。その映画では、のっけからデップは撃たれてしまう。死に行く主人公の道行に費やされる全編の描写でこの映画はいっぱいだ。それなのに不思議な魅力が溢れている。本書を読み始めたときにまず頭に浮かんだのはその映画のことだ。

 主人公は最初からナイフで腹を刺される。治療すればいいのに、自分はこんなことでは死なないという奇妙な自信を持っている故に限界まで治療を引き伸ばそうとする。まるで力道山が刺されたたときみたいに。刺されても呑み続けた挙句、そのまま死んでしまったあの強さゆえの死、という昭和の伝説みたいに。

 ナイフ傷は癒され、本編は足を洗いたいヤクザ対盲目の少女という、まるで「津軽じょんがら節」みたいに絵に描いたような悲劇を、美しい恋愛物語としてかたどってゆく。斎藤耕一という、これ以上ないほどに叙情に溢れた監督によるカメラワークの冬・海・北の世界を映画はこれでもかというように突き進んだものだ。それをこの小説は題材もそのままに突き進んでゆく。

 北へ向かう主人公の旅。終着駅はどこなのか。デッドマンとしての最後の道行きはいつ始まり、いつ終わるのか。『天国への階段』で確かなビルディングス・ロマンの腕を見せ付けてくれたこの作家の筆力が、なお一層研ぎ澄まされて、帰ってきた。処女作『流星たちの宴』で既に輝いていたロマンを、けれんみなく描き切った。一言で言うなら、ジャズの名ナンバーにちなんで<ストレート、ノー・チェイサー>!

(2005.01.03)
最終更新:2007年09月26日 23:31