病葉流れて





題名:病葉流れて
作者:白川道
発行:小学館 1998.9.20 初版
価格:\1,600

 ぼくは麻雀が好きだが、それほど麻雀中毒というわけでもない。賭け事をやらぬわけではないが、ギャンブルは好きなほうではないと思う。だから世の中にけっこう存在するギャンブル好きという方々の気持ちはあまりよくわからない、というのが正直なところなのだ。どちらかと言えば慎重に前足で地面を確かめて歩き出すタイプと言っていい。そうは見えない、とよく言われるけれども。

 だから麻雀小説という分野にもあまり足を踏み入れないようにしていた。麻雀は好きなくせに麻雀小説は苦手であった。麻雀小説の雀師たちは、たいてい常識を逸脱しているほどのギャンブラーであり、そんなところに無責任に共感できないし、賛美もできないというのが、映画『麻雀放浪記』を見たときの印象だ。

 この小説を読むのは、あくまで自分なりに納得の行くハードボイルド作家として白川道を気に入っているからであるし、花村萬月の『二進法の犬』でギャンブル・シーンに目くるめく魅せられちまったから、ということもある。あのギャンブル・シーンの集中力はこの小説にはないものの(何せいまだに週刊誌連載中の未完の小説なのだからこの点は仕方ない)、ギャンブルの魅力が、これと言って特徴のない青年の個性ををどんどん引き出してゆく様は、なんとも劇的でパワフルなのである。

 麻雀小説というよりはかなりの意味で青春小説、自伝小説、とでも言ったほうが良さそうな話なのだが、それでもポイントを押さえているのは、賭け事に青春の時間のほぼすべてを奪われ、のめり、女たちに愛される主人公のどこか悪びれてゆく姿なのである。悪の道は格好いいなあ、と人ごとながらつくづく思える話だと思う。人生、これ博奕だぜ、なんて言っているうちが、本当に人生の華なのだとつくづく思う。

 そんな格好いい青春と、麻雀の極意を一緒に読みたい方には、本気でお薦めしたい、麻雀好き必読の長篇ストレート小説、と言っておきたい。

(1999.04.12)
最終更新:2007年09月26日 23:19