テロリスト



題名:テロリスト
原題:Terrorist (1975)
著者:マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー Maj Sjowall and Per wahloo
訳者:高見浩
発行:角川書店 1979.2.5 初版 1981.6.10 4刷
価格:\1,200

 サービス精神を存分に働かせてシリーズを終えようとすると、こういう派手めな小説になってしまうのかな、という感覚。『ロゼアンナ』や『蒸発した男』など、かなり地味めの作品に代表されたシリーズ前半に較べると、ここのところ後半作品は派手なものが多いなあ、と感じていた。このあたり 87 分署シリーズなどと逆であるところが面白かったりする。

 これまでにシリーズで行き交わした登場人物たちの総登場に至ってはもうサービス以外の何物でもない。それだけに読者としては楽しさに身を委ねたり、例によって社会悪の被害者たちに同情を覚えたりして、絵巻物のようなサービスシーンの連続を読み継ぐことができる。しかし、それだけに初期作品の丁寧な筆致がもうここにないことを、少しばかり嘆きたい気持ちにもなってしまう。

 ラーソンのテロ見学や上司との会話、警官たちのイカレぶりなどは、どちらかというと、もう小説の領域を逸脱して、劇画チックと言った方が良いかもしれないのだ。その中で作者はあくまで声高に社会批判を唱えているのだが、このアンバランスさはやはりぼくには買えない。

 シリーズ最後の締めくくりと言う作者側の意識も強すぎるようだし、もっと何気なしにすっと、品よく、幕を閉じていただきたかった気がするのである。

 物語は面白いのでもちろん多くの人に読んでもらいたいのだが、それだけにサービス精神を、他の理解の下に発揮していただきたかった。書き急がざるを得ない作者夫婦の状況というのを念頭におくと、そこまで言うのは、逆に贅沢であるのかもしれないのだが……。

(1994.06.11)
最終更新:2007年09月25日 23:37