警官殺し



題名:警官殺し
原題:Cop Killer (1974)
著者:マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー Maj Sjowall and Per wahloo
訳者:高見浩
発行:角川文庫 1983.3.25 初版 1993.11.10 3刷
価格:\720(本体\699)

 前作『密室』では、事件を小説の素材として生かし切れていなかったように思うし、小説背景がストーリーの前面に出てきてしまって、それがもはや背景とは言い難いほどで、ぼくはとてもアンバランスな作品だと感じたのだけど、本作『警官殺し』ではその轍を踏まずに、事件そのものをあくまで刑事たちに追跡させ、もう一方で「警官殺し」事件を添えるという具体的な方法が取られる。小説はこうでなくてはいけないと思う。

 なぜなら前作で作者が恐らく言わんとしていた、警察権力の暴力的傾斜、腐敗、社会治安の乱れ……そう言ったあらゆる主張が、ここでは抽象的な解説ではなしに、事件捜査を通して語られているからだ。

 おまけに『ロゼアンナ』『蒸発した男』の両犯人がともに服役を終えて、ベックらと再会を果たす。その舞台がスウェーデン最南端のひっそりとした田舎町。思えば『ロゼアンナ』の犯人は、シリーズ中唯一、サイコ・サスペンス的異常さを備えているので、その同じ人物が、この事件の容疑者として世間を騒然とさせる……というプロットは、『笑う警官』のような派手さはないまでも、シリーズ読者にとってはかなり牽引力を感じさせられる話である。後期のピークに値する作品であるかもしれない。

 この作品でしっかりと存在感を与えてくれたのは、なんと言っても田舎警部オーライであると思う。ベックに「じゃんけん」を教えているところを見るとスウェーデンには「じゃんけん」なんてないんだなあ、などとも変なところで感心したけれど、二人で狩猟に出かけたり、獲物の雉をオーライが料理して、それをベックが美味しく味わうシーンなどは、ちょっと恋人のレア・ニールセンとのロマンス・シーン以上に、男同士のハートウォーミングなシーンであったぞ。

 だから最後までオーライが魅力的だった。この作品に独特なローカル色を添えたのは、他ならぬオーライだった。そういう意味ではコルベリは、都会の不幸さを一身に背負ってまるで対照的であった。そういうわけで、いろいろな意味で深く感情移入できた作品である。

(1994.06.03)