消えた消防車



題名:消えた消防車
原題:The Fire Engine That Disappeared (1969)
著者:マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー Maj Sjowall and Per wahloo
訳者:高見浩
発行:角川文庫 1973.12.20 初版 1993.11.10 16刷
価格:\680(本体\660)

 シリーズもこのあたりまで来ると次第に登場人物が独り歩きしてくれるようになっているのだろうと思う。作者も人物造形に気を遣うより、その人物にある程度行動を委託できるのではないだろうか。ただし初期設定みたいなものをこういうシリーズの場合、どの辺りでやっているのかわからない。

 この作品に限ってはグンバルト・ラーソンの個性が目立つのだが、彼は途中出場の刑事だし、前作で死んでしまったステンストルムについては逆に一作目で、特技は尾行、と既に初期設定がなされている。この設定が先になされていなければ『笑う警官』の謎解きはありえないわけだから、ひょっとするとこの作者、かなり前もって個性の塗り分けをきちんとやっているのか、あるいは完成した個性を使い分けるのが巧いのか・・・・。

 前作に継いでまたも大量殺人かと思われるスタートなのだが、その前に自殺者の伏線がある。『バルコニーの男』でも見せた冒頭の伏線というのが、この作者のお得意なのか、かなり幻想味を加えてくれる気がする。伏線とわかっていながらも、なかなかこのプロローグがその後取り上げられないだけに、後々に刑事とともに読者がこれを思い出させられる時には、けっこう身に染みたりもする。

 ラストは、新米刑事を連れてコルベリが犯人逮捕に赴くのだが、このあたりでベックやラーソンが休暇で出払っているあたり、従来のヒーロー小説をあっさりすかしてしまうところもよろしい。だから結末もそれらしくて、なるほどであった。

 一作目ではベックが単独主人公として重きを置かれていたのに、ここのところ、刑事たちの群像がそれぞれかなりバランスよく描かれてきている点、なかなか良くなってきたなあ、と感じさせられる一篇であった。

(1994.05.25)