キャッツキルの鷲


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原題:A Catskill Eagle (1985)
著者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker
訳者:菊池 光
発行:ハヤカワ文庫HM 1992.12.15 初刷 1993.2.15 2刷
価格:\580

 さてこれがスーザンとの危機三部作(とでも呼びたくなる)の完結編である。西海岸に飛んでホーク共々大暴れするという、いかにもシリーズのバランスを一気に破壊してしまった感のある巨編。今読んでもけっこう驚くくらいなので、発刊当時はさぞかし物議を醸しただろうと思われる。そのくらい意外性に満ちた一冊だ。

 とにかく探偵小説としての骨格を壊し、サイド・ストーリーを主軸に持ってきてしまっったために、主人公はもはやこれでは探偵ではない(スピレーンのマイク・ハマーはそのあたりがむしろ売りであったかもしれない)。悪の砦に幽閉された姫君を救いにゆく三銃士みたいなもので、ジャンル分けするなら冒険小説ではあっても、これは全然ハードボイルド・ミステリーではないと思う。

 アクションものはもともと嫌いなほうではないので、硝煙や火薬の臭いが耐えることなく次々と襲撃に出向いてゆくスペンサーとホークの姿はそれなりに格好良いのだが、あまりにも二人のスーパーマンぶりがすごくって、これが冒険小説であるとしたら、マック・ボラン並みの安物ペーパーバック・シリーズと整理したくなるものであるかもしれない。

 しかしながら本書がマック・ボランやマッド・マックスと違うのは、アメリカを生き抜く数人の男女のシリーズとしての歴史的な重みがある点であり、この点は本書にとって最重要であるのかもしれない。シリーズ読者というのは作者にとって本当に一朝一夕の財産ではなく長い時間をかけて蓄積してゆくものなのだ。

 でもやはり思い返してみるとこの本は、全米当局を敵に回すバイオレンスな二人組犯罪者を主人公とした私的制裁小説であり、殺人破壊襲撃小説であり、CIAの思惑をからめて国際的スケールも合わせ持たせた立派な戦略小説でもあり得る。この後どうやって矛を収めるのだろうかと危ぶまれるほどの暴走巨編ではあった。

 シリーズの中での鬼っ子なのか、それとも白眉であるのかは、評の分かれるところだろう。しかし、シリーズの折り返し点ということにおいては、おそらくどちらの側の評者も賛成してはくれるだろう。そのくらい目立ちに目立つ一作であり、シリーズ屈指の大作である。でも、これで落ち着いてくれるという一点の方が、ぼくには結果的にありがたい。
最終更新:2006年11月25日 00:37