シンプル・プラン





題名:シンプル・プラン
原題:A SIMPLE PLAN (1993)
作者:SCOTT SMITH
訳者:近藤純夫
発行:扶桑社ミステリー 1994.2.28 1刷 1994.12.30 10刷
価格:\720(本体\699)

 弱冠27 歳の作家がデビューする作品としては、この面白さはリミットだと言っていいのではないだろうか? この年代の青年に謀略小説や男の生き様を期待できるかと言ったら、 自分の 27 歳のときに照らし合わせるのは問題だとしても 、やはり無理はしない方が……というのがぼくの気持ち。逆に若い作家は若くなければ書けない領域で勝負に出ればいいわけだし、この作品はそういう意味では一流のデビュー作であると、ぼくは思ってしまうぞ。

 少し狂気の方に傾くかなという感じは主人公が犬を見て決意するあたり、その奇妙に憂鬱な視点だったりするし、そういう一瞬の狂気を妻のサラが何度も何度も軌道修正してゆくのだが、全体に心理サスペンスの色合いはそう濃いものではなく、状況劇……と言った方が良いかもしれない。舞台劇にしても楽しめるプロットというべきか。

 舞台劇にするようなプロットはそう複雑でもいけない。このようなシンプルなストーリーをその状況の変化を追ってサスペンスフルに追うだけで十分だと思う。読者の側の次に何が起こるのかへの期待。また、うまくいくわけがないだろうなあとの不安と破滅への予感……そういう読者側の心の高揚を誘うシンプルな状況劇だと思えば、十分楽しめるような気がするのだ。

 状況劇だから主人公の性格や判断などはこちらの思い通りにならないばかりか、その歯がゆさを味わう種類のものと言えよう。こういう歯がゆさが生理的に大変いやな読者というのは、この種の本は遠ざけたいだろうな、とぼくは想像できる。ぼくは、といえば、この歯がゆさがけっこう好きだったりする……マゾだな 。

(1995.02.05)
最終更新:2007年09月25日 23:14