Mr.クイン




題名:Mr.クイン
原題:Quinn (1999)
作者:Seamus Smyth
訳者:黒原敏行
発行:ハヤカワ・ミステリアス・プレス文庫 2000.8.31 初版
価格:\780


 男が肥溜めを見下ろしているように見えるカバー絵。内容も似たようなものだったという印象。

 完全犯罪のプロ、クイン。汚れ仕事は他人にやらせ、自分は表に出ることなく犯罪を立案する。こうした存在はミステリーの最後によく登場したりする口だと思うけれども、それをしっかりと悪の側から描いた視点には感服するものがある。

 しかし感覚的に読んでいて感じる基本的な嫌悪感があるのはぼくも単なる小市民ということか。どういうところかと言うと、何の罪もない幸せな家庭を狙って綿密な殺しの計画を立ててゆくその冷血さ。アメリカのノワールと違って、イギリス・ミステリーらしく、犯罪そのものの完遂させることに主人公たちの重心が傾いており、アメリカやフランスのノワールのような悪の中の掟と言ったストイシズムもなければ、ぺーソスなどは一点もない。

 ノワールブームに乗れるかどうかは読者側の感性次第と言ったところか。ちなみに、ぼくにとってはこういう視点だと何ら面白さが感じられなくなる。悪を描けばノワールなのか? という疑問を最後にはつくづく感じてしまった。

 悪党と犠牲者しか出て来ない小説という点に居心地の悪さを感じていたのかもしれない。悪党でも警官でもだれでもいい、最低一人くらいは自分が軸として感情を移入できる人物がぼくの求める小説というものには必要なのかもしれない。

(2000.11.05)
最終更新:2007年09月25日 23:07