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原題:Valediction (1984)
著者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker
訳者:菊池 光
発行:ハヤカワ文庫HM 1992.1.15 初刷 1993.9.30 3刷
価格:\500

 シリーズとしてはスーザンとの仲が底を見ることになる一冊で、ある非常な試練をスペンサーは迎える。全編を通して心身ともにどん底。こんなことを自分で予感していたのか、あるいはそういう点を他の読者から聞いていたのか、とにかくぼくは詳しいことはともかくこうしたことになるということは、なぜかわかっていた。

 だから何なのだ? と言うしかないほどこの悲劇に同情を覚えないのは、やはりぼくがアメリカ文化に慣れないからなのか。それともパーカーのこういう小説作法自体にあまり賛成していないせいなのかもしれない。

 怪しい宗教を相手取ってそれなりにマッチョぶりを発揮して探偵という仕事を維持しているのだけれど、小説の主人公としてはどうしてもどん底にあるイメージで、何とか自分の精神世界を持たせているのがやっと。周囲に甘えているようにも見えるし、第一周囲はもともとこの男に甘いと思う。いつからホークとスペンサーがこんなにわかりやすいフレンズになったんだっけ。それともぼくの10年越しの記憶の擦り切れで、ホークはそれ以上のものではなかったのかな。

 第一、主筋がまだまだ面白さに欠ける。確かにスペンサー・シリーズは、時代のさまざまな断面とそこに存在する重要な問題を読者に暗示してくれてきた現代性の高い作品群であり、それはまたハードボイルドの一つの条件とすら言えるものなのだけれど、あまり生き生きしていない街、救いのないけちな犯罪者、悪意の教団というイメージにしてはあまりリアリティのない組織……という本作の設定を見ていると、このあたりの空気はシリーズ中最も弱々しい。

 もっとも、この辺の作品群は、どれもが次作『キャッツキルの鷲』というある意味での大団円への序章であると言ってしまえるのだが、あまりにそれがあからさまで(あと追いで読んでいると余計にそう思う)、小さくまとまり過ぎたようにも思える。でも読者にとってはシリーズのこの後を楽しむための試練だ。少なくともシリーズはこの後が長いし、この後が面白く、よりまっとうに楽しめるものになってゆく。ここは本当に試練なのである。