音の手がかり



題名:音の手がかり
原題:SIGHT UNSEEN ,(1990)
作者:DAVID LORNE
訳者:平田敬
発行:新潮文庫 1990.1.25 初版
価格:\680(\660)

 最近、警察・FBI ものといえばサイコ・サスペンスだけど、これに対して科学捜査を柱にしたパトリシア・コーンウェルの検屍官ケイ・シリーズなどが、犯人はそのままサイコ・サスペンス、しかし解決へのアプローチは化学的で論理的な方法を見せてくれている。思えば検屍官シリーズはサイコ系に食傷した読者を呼び寄せるに格好のタイミングであったのかもしれない。

 さて本書はその検屍官シリーズでさえ真っ青の新しいヒーロー譚。 18 ヶ月前に映画撮影中の事故で視覚を失った元音響技術者が、誘拐された姪をその洗練された聴覚で救おうという物語であり、このアイディアの斬新さもともかく、内容のいちいち納得の行く面白さは白眉であった。今年度のミステリー界に新風を巻き起こす一冊、と言っても過言ではないと思う。

 ムードとしては <人間嘘発見器> を謳った『嘘、そして沈黙』の老刑事に似て、人生をスポイルしてしまった盲目の男。しかしその特殊な技術を生かして行く様が、本からぼくを引き離さず、あっという間の 540 ページであった。

 ひとつには事件が少女誘拐という緊迫してものであったこと、またすべてが眠らない二日半のできごとであり、スリルが延々持続している小説であることなどが、その絶間ない面白さの理由であろう。おまけに舞台は、雪嵐近づくシカゴ。街の描写も人物描写も聴覚を通したものとして語られるが、下手な視覚的描写よりも遥かにリアルでぞくぞくと来るのにはさすがに驚いた。

 この作者は理科系のインテリらしく、本書もデビュー作である。他に二作ほど書いているが、タイトルだけを見回すと、どうも本書の主人公スパイク・ハーレックはシリーズものらしく思われる。ラストでもそれらしきことを匂わせる。

 今回は誘拐で始まり誘拐で終わるその緊迫感がすさまじかったし (冒頭から引き込まれること請け合います)、 誘拐魔がスナイパー他の特殊技術を持っているらしきことなどで、クライマックスも盛り上がったが、同じようなドラマがこの奇妙な主人公の聴覚世界をもとに描けるのであろうか? 再び同じレベルで描けるなら、この作家は本物であると思う。

(1993.02.13)