夜の獲物




題名:夜の獲物
原題:Night Prey (1994)
作者:John Sandford
訳者:真崎義博
発行:早川書房 1996.11.30 初版
価格:\2,200


 アメリカではベストセラー作家で知られるジョン・サンドフォードの作品は日本では『サディスティック・キラー』でミステリー界をざわめかせて以来少し知名度が低迷を続けている気がする。

 ひとつにはこのシリーズが、当時ブームであったサイコ・サスペンスという狭隘な範疇に無理やり押し込まれてしまったこともあったろう。実際にはぼくの知る限り、このシリーズはすべて刑事と犯人との追跡と逃走にこそ面白さを求めているものであり、原題のすべてに"Prey"(獲物)の文字が冠されている通り、間違いなくハンティング・サスペンスと言ってもいいほど犯罪とアクションに満ちた警察小説のシリーズである。

 主人公ルーカス・ダヴンポートは自分で創り出したゲームをヒットさせた資産家であり、コンピュータ・ゲームの制作会社のオーナーであり、それでいで犯罪者を追跡することが好きでたまらない刑事でもある。犯罪の追跡にはどこかゲームじみたところがあるし、抑鬱的でどちらかというと犯罪者の異常をも合わせ持ちかねない危うさがある。

 一方で犯罪者の側は、大抵異常なまでの執念を犯罪そのものに示し、大抵大胆な挑戦を試みてくる。常に読者の印象に残るのは、毎作傾向を変えて出てくる犯罪者のほうだと言っていい。

 そのパターンにいささか飽きが来て『冬の獲物』以来三年ほどこのシリーズから遠ざかっていたが、新刊が文庫化され入手しやすくなったために、途切れていたシリーズをふたたび読み始めることにした。

 この『夜の獲物』では、プロの夜盗でなおかつ異常殺人鬼という犯罪者が、異常なゆえの大胆さと無計画さと過激をきわめてゆく過程が凄まじい。それでもサイコというよりは、ハンティング小説と呼びたくなるのは、ディテールの追跡劇の面白さ、仕掛けの多さだと思う。犯人と警察の間の距離を読者だけが知っていることで劇的な緊張が盛り上がるのだが、こうした描写が連続するにつけ、全米ベストセラーというのも頷ける。

 『冬の獲物』で最悪に近い結末を迎えたルーカスの復活編。ぜひ順番にお読みいただきたい傑作シリーズの一つである。

(2000.03.21)