サディスティック・キラー



題名:サディスティック・キラー
原題:RULES OF PREY ,1989
作者:JOHN SANDFORD
訳者:山田久美子
発行:新潮文庫
価格:\680(本体\660)

 この本は、連続殺人魔と個性的刑事との対決小説。お互いを意識し合いながら、いかに相手の上をゆくかという知略の攻防が魅力的な犯罪捜査小説である。新潮文庫は先月の『音の手がかり』といい、本書といい、食傷ぎみのサイコ・スリラーものにどうだと言わんばかりに、いい意味での挑戦をしてくれている。そして今月もこの挑戦は結果よし、見通しよしであり、ぼくの必読リストにはまたも新しくダヴェンポート・シリーズが加わってしまったのである。

 これはもう主人公の魅力でぐいぐいと引っ張ってゆく、キャラクター牽引力の強い小説である。少しオタクっぽいとのころのある (^^;) ルーカス・ダヴェンポートは、刑事でよりもむしろゲーム作家で大金を稼ぎ、優雅な生活を営んでいる。警察のだれからも有能であることを確信され、女性にもいやにもてるのだが、決してイヤミがない熱血漢でもあるのだが、飛行機を恐がるなどの愛敬もある。

 刑事にしてはいくつものプライバシー世界を持っていて、そちらでの仲間たちが事件のよきコンサルタントにもなってくれたりする点をみても、なかなかに個性豊かな小説である。舞台になるミネソタは、確かジェシイ・ジェイムスの世界である。アメリカ西部の都市に初めて頻発する残虐な連続殺人っていうところも個性的。

 そして犯人が警察に挑戦の印を残してゆく自意識過剰のインテリである点を抜きにしては、この小説はここまで楽しめなかったろう。ゆえに次作からこの作家が同じシリーズでどのレベルまで手を変え品を変え読者を引きずってくれるのか、今から邦訳が楽しみである。

(1993.03.19)
最終更新:2007年09月25日 00:52