ホワイト・バタフライ



題名:ホワイト・バタフライ
原題:WHITE BUTTERFLY (1992)
作者:Walter Mosley
訳者:坂本憲一
発行:早川書房 1995.4.30 初版
価格:\1,800(本体\1,748)

 今…… 最近という意味ではなく本当に今日現在の話で……、ハードボイルドの直系の子孫にあたる作家は? と聞かれた場合、ぼくが第一に思い浮かべる作家は日本では原りょう、そしてアメリカではこのウォルター・モズリイである。

 直系と言うには、モズリイは黒人作家であり、前作では赤狩り、本作では黒人差別をけっこう前面に出しているではないか、という意見もあるかもしれない。おまけに本作ではのっけから読者を出し抜くような形で、結婚、育児に追われている主人公は、どこが直系か、という異論もあるかもしれない。

 でもやはり、今、この程度に文体とプロットに凝った形で、なおかつ主人公や多くの脇役たち、そして何よりも大きな一つの都市を大事に描く作家は、内外ではこの二人だとぼくは思えてならないのである。

 「玄関を出ると、ロスの街がわたしを待っていた。山々にはばまれないかぎり、どこまでも遠くが見晴らせた。わたしはロスに値しなかったが、それでもロスはわたしの街だった」

 なぜロスに値しないかは、ぜひともこのシリーズを手に取ってストーリーを追っていただきたい。 一作目の『ブルードレスの女』(ハヤカワ・ポケミス) からしっかりと順番に読んでいただきたい。パーカー会議室に代わって、いずれモズリイ会議室を大手を振って開ける日を、ぼくは首を長くして待ち続けたいと思っている。

(1995.05.17)
最終更新:2007年09月25日 00:35