シャッター・アイランド





題名:シャッター・アイランド
原題:Shutter Island (2003)
作者:デニス・ルヘイン Dennis Lehane
訳者:加賀山卓朗
発行:早川書房 2003.12.15 初版
価格:\1900

 『ミスティック・リバー』の二週間後に本書を読む。他のルヘインは知らない、というぼくのような読者の場合、両作品のあまりの趣味の違いに戸惑いを感じるであろう、ということなのだろうか。予め、作者の新境地であると聞かされていたせいもあるのかもしれないが、とりわけ当惑感はゼロであった。素材にミステリーやホラーの要素が散りばめられていて、『ミスティック……』よりもずっとエンターテインメント性が高いという部分を除けば、やはりこれはデニス・ルへインの文芸色豊かな、男と女の精神史の物語であり、やはりそこに現出するのは社会層のなかに滲み出て来る悲劇のドラマである。

 引きずる過去、抉り出される傷痕、という意味でも、ルヘインのニ作の味わいは近いところにフォーカスされていると思う。きっと筋金入りのルヘイン読者が、この作品を手に取ったところで、路線変更だのなんだのと怒り出すような類いのものでもないような気がする。むしろ『ミスティック……』の叙情主義により長大さを削り、よりスピーディで大衆的なものにしつつ、それでいて最低限のルへイン的詩情を残してゆく、といった新読者獲得の方向性であれば、この作品はそこそこ成功していると思う。

 本格好きの謎解き主体の読者であればこの程度では物足りないかもしれないが、ぼくにはけっこう外連味たっぷり、ゴシック要素ぎっちりの刺激的な楽しさに満ち溢れているように思える。素材も揃っている。嵐に閉じ込められた孤島。張り詰めた四日間。重犯罪者専用の精神病院、はたまた政府から秘密資金を提供されている実験施設。次々にあらわになってゆく登場人物の正体。謎に継ぐ謎。

 そうしたミステリアスな物語に加え最終章は袋綴じである(図書館で借りるとこれは最初から開いているので、あれっ? と思うだけなのだが)。ぼくの場合、この本はぺージターナーと言え、日曜日の一日で読了。それだけジェットコースター的面白さがあり、ルヘインにもディーヴァーのような作品が書けるのだと驚かされた。また、最終章が意味深な皮肉で終わっており、どんでん返しのまたどんでん返しとなっている。逢坂剛の心理サスペンスなども思い出したし、いろいろなページを後から確認したくなる気分は映画『シックス・センス』の直後のような気分。

 ルヘインのこれまでの作品はどうも、という向きにも是非お薦めしてみたい気がする一冊である。

(2004/04/04)
最終更新:2007年09月13日 23:00