天空の蜂






題名:天空の蜂
作者:東野圭吾
発行:講談社 1995.11.15 初版
価格:\1,700

 最近読んだ国産小説の中では間違いなくナンバーワン。自分の好みの物語ではないのだけれど、プロットの豊かさ、練り具合い、面白さ、一気度、緊迫度、いろいろな意味でただの本格推理作家と思い込んでいた人が実は冒険小説作家であったのだなあ、と驚かされた嬉しい一冊。

 いきなり犯罪。全国の原発を止めねば原発上に最新式ヘリを落とすぞという犯人側の脅迫のスケールも大きければ、この無人ヘリに間違って子供が乗り込んでいたなんていう筋書きも非常にいい。クライシス・サスペンスと帯にあるとおりです。

 国産作家でここまで練られたスケールの大きな冒険小説を書く人があまりいないなかでの奮闘はとっても評価できると思う。

 映画で言えば『合衆国最後の日』『新幹線大爆破』などに見られるような、犯罪者の側の理というところにもう少し重きをおけばさらに劇的なものになっただろうし、ぼくの好みにも近づいたのだと思うけれど、ここではどちらかというと原発の抱える危機管理という問題を作者は世に提言しただけで終っちゃっている。これだけがちと説教じみていて残念ではあるのだけれど、それでもよくやってる。

 物語上の最大の不満は巻半ばにして興味の一つを解決しちゃう点で、すべてをある一瞬にもってゆくことができたならさらに盛り上がったろうと思われる。映画化を期待したくなるような素晴らしい状況小説。900枚という少なくない原稿が、実は物語上わずか数時間という濃縮されたものである点、ぼくは最も買います。

(1996.05.25)
最終更新:2007年08月27日 21:21