神々のプロムナード





題名:神々のプロムナード
作者:鈴木光司
発行:講談社 2003.04.25 初版
価格:\1,900

 いやあ、中途半端な作品! というのが読後の印象。エンターテインメント方向に少し帰ってきてくれたのかと思いきや、何だか人生ドラマに落ちてしまうのか、しかもそう突っ込んだものでもない底の浅いものに……。この作家がかつてあの『リング』シリーズで見せた天才的創作能力は一体何だったのだろう?

 この作品には八年もかかったのだそうである。相当難産だったみたいだ。基本的にはカルト集団を描いたものなのだけれど、書き始めた途端にオウムの事件があったので軌道修正したのだそうだ。初期の構想とは全然別方向を向いたのだそうだ。そういうことがあとがきで作者によって語られている。

 小説そのものに集中力がないように見えるのも難産だったせいなのか。長期間に渡って書いたものにしては、書かれるためのモチーフというものも足りないような気がする。題材だけぶら下げて歩き出してしまったものの、どこへ持ってゆくか落とし所がわからない小説。

 もともと鈴木光司は先を見て構想通りにしっかり書いてゆく作家ではなく、後で帳尻を合わせるタイプだと言う。『リング』のシリーズだって『ループ』までのストーリーなどは考えてもいなかったそうなのだから、驚きだ。しかしああした成功例もあれば、失敗例もあるのだという、こちらはその後者の代表作みたいになってしまったか。

 確かに美談であるかもしれないけれど、どこを見ても甘い。詰めも甘いし、人間も社会も甘すぎるという気がする。登場人物だって魅力に欠けるし、じくじくと悩んでばかり。一見謎を追うストーリーだとばかり思っていたものが最後に肩すかしを食らう。トリックもどんでん返しも、すべて期待を裏切ってゆく。

 これだけ文章が書けるのに、作品をあまり書かないことで、錆ついている作家、と評したら言い過ぎなのだろうか。

(2003.07.07)
最終更新:2007年07月22日 22:26