光射す海





題名 光射す海
著者 鈴木光司
発行 新潮文庫 1996.6.1 初版 1999.6.5 14刷
価格 \476



 心理サスペンスの魅力と海洋冒険小説の魅力。二つの世界を緻密なプロット構成で重ね合わせた本書。登場人物たちのいずれもが実に個性的で記憶に残りやすい。物語は深く、かつ壮大。メディカル・サイエンティフィック・ミステリーとしての論理性に富んでもいる。凄い作品だ。

 思えば『リング』と『らせん』との合間に発表された長編作品である。『らせん』の題材らしきもの=遺伝子に関してのアイディアはこの作品あたりから創り出されようとしていたものなのかもしれない。

 意志を持つ遺伝子の存在いうのが、けっこう怖かったりする。進化への意志であればいいのだが、必ずしもそうでないケースはけっこう怖いものを感じる。発行当時ぼくが読んでいたなら間違いなくベストに入れていただろう……そのくらいに完成度の高い長編で、非常に驚かされた。14刷と文庫判でさえ版を重ねているのは、必ずしも『リング』人気からだけではあるまい。

 バイオ・スリラーとしてとても怖い。それでいてとてもヒューマンな恋愛小説でもあるのだった。思わず感動してしまった。今では鈴木光司はただの人気作家ではなく、本物の作家なのだと、ぼくは認識している。

(2000.05.04)
最終更新:2007年07月22日 22:20