仄暗い水の底から





題名 仄暗い水の底から
著者 鈴木光司
発行 角川ホラー文庫 1997.9.25 初刷 1999.11.20 12刷
価格 \533

 一つの浜辺での老女と孫娘のエピソードが短編をサンドイッチしている。老婆が浜辺に流れ着いたものの中でとりわけ印象的な拾い物のことを語り始める。そして多くの漂着物が語り始める物語の数々をも。

 こういう構成の短編集は好きだ。何よりもすべてが東京湾、ウォーターフロントにまつわる短編で、すべてが水に関わる物語だという整然とした統一性もぼくの感性にとてもしっくりくる。

 もちろん鈴木光司のホラー短編というのはこれくらいしかないのだけれど、それでもやはりこの人の作品はホラーから逸脱しようとするところがある。それだけ一つや二つの枠組みには収まらない作家なのだと思う。

 ホラーとして本当に怖く感じたのは『浮遊する水』だけで、他の作品にはむしろロマンチシズムや文明観みたいなものを感じてしまった。

 ちなみに『漂流船』は長編『光射す海』のマグロ漁船を髣髴とさせた。冒険小説的要素の強い『海に沈む森』はエピローグにそのまま直結してゆく。やはりこういう構成はぼくは好きなのである。

(2000.04.23)
最終更新:2007年07月22日 22:18