ループ



題名 ループ
著者 鈴木光司
発行 角川書店 1998.1.31 初版 1999.4.25 21刷
価格 \1,600

 シリーズ第二作『らせん』のなかで読者を待ち受けていたものは、一作目『リング』の真相を解明する『リング』界のより上位の物語だった。ホラー小説としての『リング』を作者自らが、より上位からの目線で描いたプロットそのものによって全否定したかのような世界が展開していた。そして第三作である本書は、『らせん』でもなおかつ明らかにならなかった部分を含めて、さらに前2作の真相を説明する物語としての驚愕の最上位ループ・ワールドを用意している。最上位と言えるのかどうか不安になるほどに、これらの世界は位相を変えて進んできてしまっているのだけれど。

 作者は後から後からストーリーを考えたらしいのだけれど、すべての作品がどれもアイディア勝負。そしてそれを論理的に明晰に描写していってしまう。大法螺与太話でありながら、DNA、遺伝、進化など現代科学の最先端テクノロジィを材料に使って読者の精神を強引に手中に入れてしまう。これぞ作家的力量と言わずしてなんだろう?

 そして一方で世界の謎を追いながら、一方では冒険小説としてのきちんとした冒険、そして探検、さらに対決その他のエンターテインメントのエッセンスと言うべきものを盛り込んでいる。そんなところが、こんなに果てしもなく深いテーマを追求しながらも多くの読者を獲得しているシリーズの人気の秘密なのだろう。結果的に残されているものは、小説という表現方法の長所を駆使しながら練りに練ったスケールの大きな作品なのだ。

 前作を否定し、そのまた次の作品でさらに前作を否定してゆくという、このオーバーラッピングの見事さ。大スケール的どんでん返しの妙。もはや国産娯楽小説作家の揺るぎなき地位を獲得している鈴木光司。リング・ワールドと賞するメディア・ミックス現象からこの作品だけは大きく距離を開けて孤高の観があるけれども、この地の果ての物語にフィルムは果たして追いつけるだろうか?

(2000.04.23)
最終更新:2007年07月22日 22:15