らせん



題名 らせん
著者 鈴木光司
発行 角川ホラー文庫 1997.12.1 初刷1999.11.30 17刷
価格 \648

 前作『リング』で抱いた印象はホラーの恐怖を持ってはいるけれども、どこかでホラーを逸脱した部分があると感じていた。論理性。明晰性。知性。冷静。何かを常に隠し持っているような小説の奥行き。そうしたものがこの作家にはある。ただ怖がらせることが目的のホラーでないことは確実だった。

 それが明らかになる本書。この作品以降は事実リング・ワールドはホラーではない。前作のネタばれになってしまうので、『らせん』の内容そのものをほとんど語ることができないのだが、かろうじてサイエンス・ミステリーと言っておこうか。前作の謎を解く『らせん』。前作のキャラクターたちを引きずって、より過酷により冷え冷えとした内容。見方によってはこちらのほうがよほど恐い、かもしれない。

 そして怖さより何よりも、ぐいぐいと誘導されるオリジナリティ豊かなアイディアとストーリーの面白さ。失われていた冒険小説的醍醐味が根底にある。謎を解き明かす喜びと、世界観を覆すかのような展開力。この作家にホラー作家というラベルを誰が貼ったのか知らないが、そうした限られた範疇に閉じこもった作家ではないことだけは確かだ。

 大法螺のような物語でありながら、その大枠に沿って細部を論理的に穴埋めしてくるその精緻な理性が、この作品を制御する最大の武器であり、ぼくらにとっては思いも寄らぬプロット構築の妙だと言える。まさに驚くべき第二作であったのだ。

 ちなみに短編集『生と死の幻想』の『キー・ウェスト』(p84)で作者がこう書いている。

 <説明さえつけば、神秘のベールは剥がれてゆく>……と。

(2000.04.23)
最終更新:2007年07月22日 22:14