真夜中のデッド・リミット





題名:真夜中のデッド・リミット(上・下)
原題:THE DAY BEFORE MIDNIGHT
作者:STEPHEN HUNTER
訳者:染田屋茂
発行:新潮文庫 1989年4月25日 初版
定価:各\480(本体\466)

 『クルドの暗殺者』の出来が良かったので前作も読むことにしたのだが、これは翻訳は先んじたものの『クルド』よりずっと後の作品。実にシンプルに核ミサイル基地占領というドラマが始まり、真夜中に向けてすべての登場人物たちが熾烈な攻防を展開する。特定の主人公はなく、事件全体を通しての群像ドラマだ。感想というのは実にいろいろな書き方があるのだと思うが、この作品は一言ですべてを言い表したいところがある。「面白い」という有無を言わさぬ一言で……。

 まず、なかなか寝られなくなるテンポのいい展開。決してゆるみを見せない息詰まるサスペンスの連続。キャラクターたちの慌ただしい動きによって切り替わってゆく視点。それぞれが素晴らしく充実しているし、意表を突くトリックとあらかじめ敷設された複線の数々が、最後の最後まで大向こうを唸らせ続ける。そして大筋はデルタフォース隊優秀なテロ軍隊の闘いになるのだろうと思いきや、実はとんでもない展開によって活躍してゆくのが何と落ちこぼれのヒーローたちなのだ。だから心を打つシーンだって豊富だし、どっぷりと感情移入させられたぼくはこの本の中でどんどん血湧き肉踊ってしまったのだった。

 トンネルネズミと名付けられた二人がいい。麻薬犯罪者だがもとはベトナムで地下専門に闘ってきた黒人、そしてかつてナパームで焼かれて死んだ娘と心の中で対話を続ける北ベトナム女性。また緊急に集められ、恐怖感を抱きながら敵陣に最初に突入してゆく州兵たちがいい。普通の人々である隊長や中尉の活躍がとても眩しい。アル中で落ちこぼれたGRUの中年情報員(チャーリー・マフィンにどこか似てるかな?)がいい。爆弾に取り憑かれ、最愛の女との別れ故に精神を病みかけた基地設計者がいい。罪悪感に捉われ、懊悩のさなかでデルタの攻撃に加わってゆくFBIの若き捜査官がいい。怒りと誇りを胸に秘めた溶接工がいい。冗談好きなミサイル管制官がいい。とにかくひとりひとりがとても好きになれるそんな本であることは間違いない。

 小道具の数々も素晴らしい。なんて重要な役を当てがわれた小道具たち。ショットガン・モスバーグ500。アメリカ製のまがいものウォッカ<ウォッカ・シティ>。いたずら書きの索引カード<マーブ登場>がいい。そして刻まれ行く時間が否が応でも作品をぎゅう詰めにし、サスペンスを一点に収束させてゆくのだ。

 核ミサイル発射管制カプセルのイメージは映画『合衆国最後の日』を思い描いて読んだ。デルタフォースの鬼隊長プラー大佐はリー・マービンのイメージだった。ネーサン・ウォールズは真面目役に役に挑んだエディ・マーフィ、そして他のキャラクターには顔を与えずにぼくは読んだ。

 読み終えてあまりにも素晴らしいのでなにか書いてあるかなと、夜中に『読まずに死ねるか4』を引っ張り出すと、おおやはり絶賛の嵐、そしてそしてなあんと、89年冒険小説大賞海外部門にしっかり輝いているではないか。そうして得心顔になって満ち足り、興奮を引きずったままのぼくはなかなか寝付かれずに、徹夜の夜明けを迎えて、会社で長い会議が待っているだけの、つらく眠い一日を始めたのであった。

(1991.07.16)