燃える波濤


「燃える波涛1」
「燃える波涛2」
「燃える波涛3」
「燃える波涛 第4部 明日のパルチザン」
「燃える波涛 第5部 冬の烈日」     (以上徳間書店)

 とぶっ続けに読んでみた。

 いつも森詠を読んで、感じるのはこの作家の良心ということだ。
「振り返れば、風」に顕著だが、ジャーナリスト時代からのの批評精神をうちに秘めており、そこには強烈な社会風刺精神が見え隠れしている。

 1-3巻に関しては、相当練り上げた構想なのだろう、日本が2.26事件まがいの軍事クーデーターによって急速右旋回するまでの、巨大なスケールの話である。主役級のキャラクターが、ここで3人出てくる。
 そのひとり枚方俊次が、フランス外人部隊の傭兵上がり。ひたすら家族の仇を追って行動する。天城徹は、新設情報局のエリート。その親友風戸大介は、もっか記憶喪失中の一匹狼パイロット。この3人による3つのドラマがやがて交わり、日本が軍部の手に落ちるところで、この物語はいったん終了する。

 第4部は、それから5年後の物語。一人の少年であった若者が、テロリストとして再生、かつて死んだと思われた枚方俊次と生死を供にしてゆくという、少し外伝的なストーリー。

 第5部は、さらに2年後、風戸大介が、フランスにある亡命政権の命を受け、日本へ帰ってくる。その後のキャラクターの現在はいかに、といった興味で一気に読ませてしまうのだが、全くといっていいほど完結性がなく、早く次が読みたい、という生理的なものに近い欲求を産み出すばかり。ぼくは基本的にSF某売れっ子作家(複数だぜ)のネバー・エンディングな本作りは非常に卑怯だと思っているし、触れたくもないのだが、森詠に限って言えば、先々までの練り上げられた構想を感じざるを得ない。そういう意味では、実に期待させるものがある。

 はっきり言って、第4部以降、かなり面白い展開になってきた。軍部がイニシアチブを取った日本で、秘密警察が地下運動家を拷問で締め上げ、インドネシアで養成された日本人テロリストと、私的バウンティ・ハンター会社が、国内で重火器を身に鎧い激突する。こういう状況を設定して、しっかり冒険小説できる日本にするために、前3作があったのかなあと思えるくらい、面白いドラマになってきてしまったのだ。

 「読まずに死ねるか」ニューバージョンでは、きっと賛美の嵐だろうなあ。

(1989.12.01)
最終更新:2007年07月22日 20:47