脅える暗殺者



題名:脅える暗殺者
原題:Menaced Assassin (1994)
作者:Joe Gores
訳者:三川基好
発行:扶桑社ミステリ 1997.7.30 初版
価格:\724

 今では巨匠の一人として挙げたいジョー・ゴアズの新作。前作『狙撃の理由』から何とも7年半ぶんりの再会で、とにかくそれだけでぼくは嬉しい。手にとって大切に読みたい作家の一人なのである。

 そして読んでみて幸福感にとらわれ、それが読書中ずっと続き、最終ページを閉じてまたも充実。うーん、やはり最後までゴアズであった。こう書いていながら特にぼくはゴアズの良い読者ではなないのである。良い読者というのは全作読んで良い読者だと思っているので、ダン・カーニィ・シリーズも『ハメット』も蔵書していながら読んでいないぼくは、罪悪感を感じてすらいる。

 それでもゴアズは必読作家である。機会を見つけて全作必ず読んでしまいたい作家なのである。

 さてそれにしても奇妙なミステリが届いたものである。というのも、三つのピースの寄り合わせでこの作品は構成されている。第一に暗殺者の独白、継いで暗殺者に狙われる人類学者の講演、そして捜査描写という三つのピース。もちろん物語の主流は次々と暗殺が成し遂げられ、そこに係わってゆく腕利き刑事の追跡を描写する三つめのピースなのであるが、他の二つのピースとどのようにクライマックスにおいて合流してゆくのが、まずもってこの作品最大のミステリーなのである。

 章題が『カンブリア紀末期』に始まり『紀元前二万五千年前~現代』に終わるという奇妙な構成がこの作品の風変わりな魅力とオリジナリティのすべてである。ストーリー運びにそれほどの凄味があるわけでもないのに何故かぐいぐいと引っ張られてしまう面白さ、こんなにたっぷりと殺されてしまっていいのかいと不安・快感ない交ぜにさせられたりするプロットにも、ゴアズらしさがある。

 常に人を喰った作風を貫くゴアズは、私立探偵の経歴を持つ英文学の大学講師。生臭い人生の闇を見すえたあげく、知的小説というもののありかたをまさぐってきたこの作家の半生が覗いている気がするこの作品。存分にゴアズ中毒になって下さい。

(1997.10.12)
最終更新:2007年07月18日 23:08