赤いキャデラック



題名:赤いキャデラック DKA探偵事務所ファイル2
原題:Final Notice (1973)
作者:ジョー・ゴアズ Joe Gores
訳者:村田靖子
発行:角川文庫 1978.1.10 初刷 1985.4.10 4版
価格:\380

 日本では、DKAファイル1である『死の蒸発』に先駆けてこちらが出版されている。どの作家でもそうだが、一作目よりも二作目の方が、面白いものが多く、日本では面白い順に紹介され、これが売れれば遡って一作目も翻訳というケースが多い。二作目が面白くなる傾向の理由としては、作家が書き慣れるということもあるだろうし、デビュー後の力が抜けてリラックスしたいいリズムで書けるということもあるだろう。もしくは、一作目を越えようという作家の意思が強くでるものなのかもしれない。

 本書は、やはり一作目とは一線を画す面白さがあり、巻を置くあたわずのスピード感だ。ストーリー自体も、全巻犯人らしき人物たちへのチェイスシーンで埋められ、探偵たちの具体的な行動によって、物語が形作られてゆくところが、さばさばして読みやすく、実に好感度万点な、行動型ハードボイルドである。

 そうは言っても一作目から読むということには、個性あるキャラクター造形を存分に味わうという楽しみがあり、本シリーズの魅力の一端はその個性のぶつかり合いにこそあるのだから、やはりこれからシリーズに取り掛かる向きには順番に読んでゆくことをオススメしたい。

 一作目が駄目というのではなく、一作目はシンプル&ストレートな追跡物語でありながら、主要登場人物がいきなり殴打され、重傷を負わされるという展開。本書はというと、どうも東部マフィアが絡んできているらしく、会社の手に負えないスケールであることが危険要素としてにおわされる。そんなスリリングな敵手を迎えて、事務所の探偵連中がどこまで戦ってくれるのか、対決ムードの高まりが犯人探し以上に嬉しい一作なのである。

 お定まりの悪女がいて、探偵事務所の側からも魅力的な女性職員が活躍、とそれぞれにアメリカらしいフェミニズムも効いていて、彼女らが男たちを食う存在感を示すあたりも読みどころの一つである。

 しかしなんと言っても、前作に引き続き、最後に根性を出すのは、親分のダン・カーニーであって、どうやらこの所長が、物語を締め括るに相応しい、最強の役者であり、読者としてはわくわくさせられるキャラクターである。守るべき家族がいて、仕事を間違えたかななどと一瞬迷いながらも、決断するときには、躊躇わずに対決してゆくそのすっきりした姿勢が、ヒーローイメージという奴をしっかりと作り出している。

 元探偵であった作家が書いたプロフェッショナルの物語であることが、行間からしみじみ感じられる魅力的な本である。

(2005.07.24)
最終更新:2007年07月18日 23:05