死の蒸発


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題名:死の蒸発 DKA探偵事務所ファイル
原題:Dead Skip (1972)
作者:ジョー・ゴアズ Joe Gores
訳者:村田靖子
発行:角川文庫 1984.7.30 初刷 1984.12.20 再版
価格:\300

 ダン・カーニイ探偵事務所、略してDKAは、車輌回収専門の、中堅どころの探偵事務所で、サンフランシスコから手の届く範囲内の、西海岸一帯で仕事を請け負っている。作中で、詳しいカバーエリアも解説されていたような気がするが、ディテールは覚えていない。いずれにせよ、地味この上ない職業にスポットを当てた、今では、はやりそうにない物語でありながら、それでいてシリーズ化されるほどにキャラクター造形が一冊では足りない、というくらい登場する人間たちに、特にこだわったシリーズのようだ。

 感心したのは、こうした翻訳小説本でも、当時の日本では半年も経たずに版を重ねている点である。こうした小説に群がる読者がいなかったわけではないのだ。

 実際、今のミステリーと呼ばれる小説たちの、ジェットコースター的展開などが嘘のように、のんびりとした時代のストーリーだ。黒人探偵が調べ物をしている間に殴られ、嵌められ、重症を追って入院に追い込まれる。仲間がこれを探り出そうと奔走し、上司のダン・カーニイ自身も途中から本腰を入れ、事件に身を乗り出すと言う話。抽象的なもの・心理描写みたいなもの、そんなすべてを排除して、とにかくも具体的で、現実的な、捜査そのものが淡々と描かれる。

 もともと作者は、ハメット以来のホンモノの私立探偵経験者であり、だからこそ出版界からお呼びがかかったのだという。デビュー作でいきなり、NWA新人賞をかっさらい(1970年長編『野獣の血』と短編『さらば故郷』との驚愕のダブル受賞!)、その後に経験を生かした形での、探偵事務所シリーズとして本DKAがスタート。

 ぼくはこの作家には、『マンハンター』でいきなりガツンとやられた口で、未だに忘れられない。無理屈ハードボイルドの雄として尊敬を捧げる師が、このジョー・ゴアズなのである。ならば、とっとと、このシリーズを読んでおけよ、というのは、もう一人のぼくの脳内セリフなのであるが……。

 マンハンターにとても似ているなと思われる語り口は、とにかくスピーディで最低限の描写。独特のゴアズ・リズムとでもいうべき端的な描写。ハードボイルドにつきもののへらず口はなし。レトリックもなし。チャンドラーというよりハメットの側に属する作家であることがおわかりだと思う。

 最後の最後に若手の探偵がダン・カーニーの凄みを見せつけられることになる。黙して語らず、表現せず、淡々と本当に男の経歴をひょいと力に変えてしまうあたりが、なんとも格好よく、ああこれがゴアズという作風であったなと、久々に堪能させられた。

 本書を読むきっかけとなったのは、リチャード・スターク『悪党パーカー/掠奪軍団』で、本書とかぶるシーンが意図的に書かれていたから。二人の作家の申し合わせによる読者サービスであり、二人の作家の双方へのエールでもあろうと思われる。またそのシーン以外にも、本書では若手探偵バラッドが、読む本はリチャード・スタークだけという下りもある。

 若手のバラッドが、上司であるダン・カーニーとの差を縮めたいと望むように、デビュー間もない作家が、好きな先輩作家へ追いつくための意気込みもあったのだ、と推測しても構いはしないだろう。

 ドライでクールで、理屈抜き。こんなハードボイルドも、もはや貴重でいい。

(2005.03.20)