果断 隠蔽捜査2





題名:果断 隠蔽捜査2
作者:今野 敏
発行:新潮社 2007.04.25 初版
価格:\1,500




 最近の和製警察小説において『隠蔽捜査』は、佐々木譲の『制服捜査』と並び立つ近年の傑作だと、ぼくは思っている。後者は、道警疑惑を元にして十勝の中札内付近という日本で最も田舎である土地への交番勤務への異動を余儀なくされた元札幌市警捜査官の、改めて土地に心から同化し、溶け込んで行く様子が感動的でさえあったのだが、前者は警察小説という構図上、常日頃、悪役しか請け負ってくることのなかったキャリア官僚の中に正義をもたらした傑物作品として、歴史となった感が強い。

 本書は、そのキャリア官僚がひたすら正義を完遂したことにより、本部総務課から大森署に異動降格させられたその後日談でありながら、現場とキャリアの距離感というところでかつて誰も書かなかった視点をもたらしたこれまた歴史に残るような開拓作業の一つと見てもいいような作品であり、内容もまた傑作である。

 ド田舎の交番勤務者も都会の警察署長も等しく家族との距離感に対し不器用でありながら、どこかに温かさを感じさせるものがあり、そしていざ事件に対するときにどちらも妥協を許さない、とりわけ自分に、というあたりが共有の意識であるように思われる。かつては組織の歯車的存在である刑事捜査官が、組織という軋轢の中で如何に真実を追求し、内外の妨害を跳ね除けて勝ち点をものにするかというのが刑事小説、刑事映画の王道であった。ダーティ・ハリーは常に警察機構から煙たがられながら、結局は誰よりも短時間、短距離で事の真相に迫り、組織に何も言わせないという結果至上主義の捜査方針を選択していた。

 それを思えば、キャリアも、田舎の駐在警察官も、ダーティ・ハリーよりはずっとナチュラルに自らの行動選択の自由を有しているはずである。でもどちらもダーティ・ハリーのような理想主義には生きられない。マグナム44をぶっ放すことのできない日本というがんじがらめの環境下で、非常にデリケートな問題が錯綜する中で、彼らは主張を通して生きてゆかねばならないのである。そんな困難に立ち向かうからこそ、ある意味、和製ヒーローたちは海外の名刑事たちを圧倒する場合があるのだ。

 本書は、そうした和製環境を逆手にとって、プロットをひねりひねった、またもや最上級のエンターテインメントであると思う。同じ主人公を同じ味、同じ面白みのままに引き出して、なおかつストーリーの上でも有無を言わせない荒業と徹底した一貫性。賞賛に値するシリーズであると思う。次の行脚先が楽しみでならない。

(2007/07/16)
最終更新:2007年07月17日 00:19