愚か者死すべし





題名:愚か者死すべし
作者:原りょう
発行:早川書房 2004.11.30 初版
価格:\1,600




 今年はハードボイルド復活の年で、ジェイムズ・クラムリーや矢作御大が何年ぶりにもなるシリーズ主人公を復活させ、それぞれに凄まじい活躍を見せてくれていたところに、なんと追い討ちをかけるように原りょうの沢崎までもが復活、ときた。ただ、如何せん、クラムリーのミロや矢作の二村英爾が、過去の作品をすべて凌駕するくらいの気合に裏付けられた復活という名に相応しい再登場をしてくれたのに対し、沢崎の本書は、むしろ初期のチャンドリアン作家としての魅力を失って、普通の探偵小説という形に成り果ててしまった印象。

 普通のミステリーとして読めばそれなりに、カネにも卑しくなく格好いい中年探偵沢崎の躍動感溢れる本書は楽しめるのかもしれないが、前作までの重厚で重い文体に支えられたチャンドラーへのオマージュとも言うべき意味付けは、きっともう作者の中で役目を終えたのだ。あとがきのなかで作者は、これからはより楽しめる沢崎、より短時間で書けるシリーズ作品を意図しているようである。裏を返せば、既存のシリーズはそうではなかった、と作者自らが決定付けていることになる。本書を読めば当然裏付けられることなのであるけれども。

 渡辺探偵事務所である意味を『さらば長き眠り』で完了させてしまったから、なんとなく空虚感の響くネイミングになってしまった事務所はいつになく多忙で変化に富んでいるし、楽しみにしていた<憎まれ口>の錦織はなんとパリなんぞに出張だと言う。新宿警察がパリというあたりに、既にシリーズの割り切りが見えるような気もする。西新宿にこだわらずそろそろこの探偵もスペンサーみたいに、どこかほかの土地に出張捜査に出かけることになるのかもしれない。

 翻訳小説みたいな作品作りから国産小説としての作品作りへの割り切り。作者がこれをやらかすのに、心のなかでどれだけの葛藤を経ねばならなかったのかわからない。これまでの物量では単純に食べていけないのかもしれない。それほど寡作であったことも事実である。あるいは前作で一応けじめをつけたシリーズには、もう沢崎という視点では戻らないという決意表明であるのかもしれない。

 他に、シリーズ外作品でもう一度あの重厚濃密懇切丁寧な原りょうだけの作品作りをやらかしてくれるというのであれば本当は嬉しいのだが。

(2004.12.12)