決着



題名:決着
原題:Decider (1993)
作者:Dick Francis
訳者:菊池 光
発行:早川書房 1994.11.15 初版
価格:\2,000(本体\1,942)

 フランシス作品としては、ぼくにとってあまり面白い方ではなかった。『黄金』を想起させるのは、複雑な家族構成を持つ一家の中の葛藤が主題になっているからかもしれない。何よりもいけないのは、途中までがフーダニット。しかしそのミステリー的興味が巻半ばでいつのまにか破綻して来ているのも、何か釈然としない。

 また、ヒロインらしき美女が現われない。現われたと思っても何か軽薄で半端な、いわばどうでもいい存在でしかない。夫婦関係も何かこう収まるべきところに収まり切っていない不安定さが最後まで残り、後味が悪い。いろいろな意味で中途半端な作品であるとぼくは思う。

 フランシスの作品は、第一、事件発生までこんなに待たせるものではなかったように思う。『横断』以来の待たせ方ではないだろうか。そういう意味で前半がちと冗長。危機感がなくいまいち乗れないままの発進という感じ。全体の70%がつまらなく、20%がまあまあ、10%が技巧かな、という印象であった。

 そんなわけで今回の狙いであるのかもしれない、ひねくれ者トビー少年と父の関係にしても、これまで競馬シリーズであまた描かれてきた父子関係という主題において、ストレートさが感じられずやはりエピソードに過ぎない感じ。いろいろな要素を詰め過ぎて、主たるストーリー (遺産相続の家庭内葛藤というありふれたもの)のあまりの物足りなさに、食傷ぎみの一冊であった。自分は、本当にフランシス・ファンなんだっけか、と自問してしまった。

(1994.12.14)
最終更新:2007年07月15日 23:40